「いぐど!女川のやろっこ!」150名超えの女川サポーターが集まる

9月2日に開催されたJFL「東京武蔵野シティFC VS コバルトーレ女川戦」で決行したコバルトーレ女川東京初遠征応援作戦「いぐど!女川のやろっこ!」
この応援作戦が、単にコバルトーレというサッカーチームを応援することだけを目的とするのではなく、チームのホームタウンである宮城県女川町に関心を持って下さる方、さらに言えば女川に行ってみよう、と思って下さる方を生み出すこと、そして女川に縁があってもサッカーに触れる機会のなかった方々には、コバルトーレの試合をスタンドで思いきり応援することで、サッカー観戦、サッカー応援の楽しさを体感してもらいたい、といった狙いがあったことは、これまでにこのブログの中でレポートとして触れてきた。
結果的に、150名を超える「女川サポーター」が武蔵野陸上競技場に集まり(当日の総観客動員数は717人)、コバルトーレが2-8と大敗をしたのにも関わらず、90分間全くトーンダウンすることなく、女川サポーターはコバルトーレが東京で戦う姿を必死に、そして楽しく応援し続けた。
大応援団の輪の中心にいた高橋正樹さん

クラブのスポンサー企業「高政」の社長であり、コバルトーレ女川にとっての最初のサポーター。それが高橋正樹さん(以下、正樹さん)だ。
サッカーにもともと関心があったわけでもなく、高政でも働く選手たちが必死でサッカーをしている姿を見て、応援しないわけにはいかないと思ったのは10年以上前の話。チームが創設されたばかりの時だったそうだ。
JFLにあっては150名のサポーターともなれば「大応援団」と言っても差し支えないのだろうが、その大応援団の輪の中心にいたのは、間違いなく正樹さんであった。
ムサリク全体に響き渡る美声で、応援チャントをリードし、実質的にこの試合がお披露目となる、漁師唄をアレンジした「港女川 コバルトーレ唄いこみ」では、自らが作詞した勇壮な歌詞を唄いこみ、常に旗色の悪い試合展開に元気をなくしてしまいそうなサポーターたちを独特なユーモアを交えた言葉でのせ続ける。
まさにスタンドにいながらにして、この日の正樹さんはコバルトーレの主役であったと言えるだろう。
決起集会で女川町の魅力をプレゼンされる

美しいサンマのほぐし方もレクチャーしてもらった
そんな正樹さんと、私は前夜に行われた決起集会(飲み会)の席から、2日間長く時間をともにさせて頂いた。
決起集会には、関東に暮らしながら女川町に魅せられた方々も参加してくださり、私に女川町に暮らす人々の様々な魅力について教えてくれた。
9月のさんま収獲祭では、何トンものサンマがふるまわれ、そのサンマが底をついてしまえば、水産業者が自らの冷蔵庫から在庫分の魚を持ち出して、無料でふるまい続けたこと。
女川で獲れたマグロを楽しみに訪れた観光客に、その時たまたま不漁でマグロが獲れず、その代わりにといって「ごめんね、大間のマグロで許して」と申し訳なさそうに高級マグロを差し出す魚屋があること。
町の中心から離れた場所にある宿まで大荷物を転がしながら歩いていると「あそこに泊まるんでしょ?乗っていきな」と見ず知らずの人が、道をUターンしてまで車で宿まで送ってくれたこと。
大震災の大津波に完全にのまれ、一時は壊滅状態にあった女川町だけに、震災後の避難生活についてのエピソードも勿論あった。
毎食配られる食事がヤマザキの菓子パンばかりで、避難住民は痩せるどころか少し太っていったこと。
家財道具はおろか、食器の1枚すら持っていない避難住民たちが、どんどん溜まっていく「ヤマザキパンの春祭り」シールで、皿を手に入れようとし出したこと。
支援物資の中にあったヘビメタTシャツ「MEGA DEATH」(政治学用語で「100万の死」)を「これを着てるとみんな笑うんだ」と言いながら、おばあさんが避難所で着ていたこと。
震災後に町の防災情報伝達手段として立ち上げられた「女川さいがいFM」でパーソナリティをしていただけあって、正樹さんはこういった話を絶妙の言葉選びをしながら、よどみなく話す。
「オラだちは未来が見えるようになった」

試合前握手をする高橋正樹さんと阿部裕二GM
「オラだちは震災や津波で受けた辛さや悲しみを忘れようと努力したから、その先にある未来が見えるようになったんだと思う」
未だ、復興も半ばにある女川町に「イマドキ女子からおっさんから、どんどん来て欲しい」と言い切れてしまうマインドは、裏を返せば、それだけ自分たちの町の魅力に自信があることの表れでもあるのだろう。
もちろん、女川町に暮らす人々の全てがこうしたオープンマインドを持てているわけではないだろうし、正樹さんたちのようにまだ先のある青年世代が新たな町づくりにモノをいい易い環境を町の長老たちが作ってくれてもいるのだろう。
ともあれ、そんな正樹さんがサポーターの中心にいるのだから、コバルトーレが今季のJFLで最下位に沈み、来季のJFL残留に向けて非常に厳しい見通しが立っていようと、そこには悲壮感や絶望感のようなものは微塵も存在しない。
競技場入りしたコバルトーレの阿部GMを見つけるやいなや「ゆうじさん 分かってますよね・・・」と意味深な「茶番」を仕掛け
前半を0-4で折り返した時には「実は皆さんに発表があります!コバルトーレは後半5点獲ることになっております!」と声をかけ
それでもさらに追加点を奪われ、0-5、0-6、とされていく度に「皆さんお分かりかも知れませんが、後半に獲るのは5点ではなく6点(7点)でした!」と言って笑いを誘い
ついには「オラだちは諦めが悪いんだ!何点獲られたって応援やめねーからな!」とチームを鼓舞する。
そんな「正樹ワールド」に染められたサポーターエリアだったからこそ、0-6から一矢報いるゴールが決まった時と、最後まで意地を見せ続けた選手たちが1-8から2点目を奪った時には、そこにいたほとんど全員の女川サポーターが立ち上がって歓声を上げていた。
「何点獲られたって応援やめねーからな!」

大敗にうなだれるコバルトーレの選手たち
客観的にみれば、こうした光景を「面白くない」「不真面目だ」と取られてしまうこともあるだろう。
しかし、正樹さんを通して女川の1日サポーターをした体験から言わせてもらえば、むしろコバルトーレサポーターの方こそ大真面目であると私は感じている。
普通に考えれば、今季コバルトーレはかなり高い確率でJFLからは降格してしまうだろう。
2020年に完成する女川町の天然芝、5000人収容の新スタジアムは、もしかしたらJリーグはおろか、JFLでも使用されず、東北リーグで使用される時間が続いてしまうかも知れない。
それでも、女川という町にとって、コバルトーレは「サッカー」という女川町への新しい扉として、その価値が何ら錆びつくことはないのだ。
年間を通して多額の資金を投入しているスポンサー企業の社長が「何点獲られたって応援やめねーからな!」と叫ぶのには、「JFLに残留しなくてはならない」「Jリーグへ昇格しなくてはならない」と言った、サッカー界に漫然と存在し、当たり前とされる価値観に対するアンチテーゼが込められているように私には聞こえた。
試合が終わり、三鷹で軽い打ち上げをしたのちに、正樹さんを宿泊先のホテルまで送る道中、私はこの「正樹ワールド」を次はどんな風にサッカー場で体感してもらえるか、それをずっと考えていた。
そしてこう思い至った。行くならやっぱり女川だ。それならば来季コバルトーレがどんなカテゴリーにいようと実行出来る。いや、来季に限らずその先も。