神奈川1部 品川CC横浜 「目標はJリーグ入り」それでも現在地を楽しもうとする姿

アンダーカテゴリー

関連リンク

 

Pocket
このエントリーをはてなブックマークに追加

日曜日の夕方 品川CC横浜のリーグ戦会場で

「楽しんでサッカーを応援しているところを見せることで、こうやってそれを見に来てくれる人がいるのは本当に嬉しいです」

これは神奈川県社会人リーグ1部で戦う品川CC横浜のリーグ戦会場で、吉田祐介GMが私に対して言ってくれた言葉だ。

そして吉田GMはこう続けた

「折角だから、彼らにも話を聞いてあげて下さい。喜ぶはずです」

気になっていた品川CC横浜のサポーター

吉田GMが「彼ら」と呼んだのは、品川CC横浜のサポーターたちのこと。

実はこうして長津田まで神奈川県1部の試合を見に来た大きな理由は、その「彼ら」の存在にあると言っても良かった。

何しろ品川CC横浜のサポーターグループの盛り上がりは、およそ県リーグでは考えられないほどのレベルなのだ。

実は少し前からこの「品川」という東京の地名を冠する「横浜」のチームに対しては、引っ掛かるものがあった。

私の出身地が品川駅に近いというのがそのそもそもの理由だが、それをきっかけにしてこのチームの情報を取っていくうちに、サポーターが非常に熱心にしかも非常に楽しそうにチームを応援している様子を少しずつ目にするようになっていったのだ。

ネットで拾える試合映像動画では、自軍のゴールの度にサポーターたちの歓喜の声が響き、チームの公式ツイッター上では、チームの勝利を選手と共に分かち合うサポーターの姿が映し出されていた。

もちろん、全国の都道府県リーグをくまなく探して行けば、こうして熱心なサポーターグループが活動しているチームもあるのだろうが(東京都リーグでもいくつかは思い当たる)言って見れば「品川」と「横浜」という全く異なる地域がチーム名に入っているこの品川CC横浜というチームをどういう人たちが応援しているのか、それについては少し想像を出来かねていた。

日本代表のサポーターグループ「infinity」

サッカー団体「infinity」

この団体の存在を抜きにして、品川CC横浜サポーターを語ることは出来ない。

日本代表のサポーターグループでもあるこの団体の代表者は品川CC横浜の吉田祐介GMその人なのだ。

「可能性は無限大」という横断幕を掲げ、この6月にはロシアまで日本代表の応援に行ってきたと話す吉田GM自身、筋金入りの日本代表サポーター。

そして「infinity」がサッカーを通して「仲間を増やす」ことも目的とし行っている5つの活動のうち「日本代表戦(応援)」「地域に根差す(サッカークラブ:品川CC横浜」は非常に重要な要素となっているのだ。(他に「交流する」「プレーする(フットサル)」「障害を越える(ブラインドサッカー、知的障碍者サッカー)」の3つがある)

つまり、品川CC横浜のサポーターたちの多くは、同時に日本代表サポーターでもあり、そこをベースとした人の繋がりがそのまま活かされている。

感じられない悲壮感や禁欲的なムード

私は吉田GMに「彼ら」の中にJリーグのどこかのチームでサポーターをしているメンバーもいるのかを聞いてみると

「そういうメンバーはいないですね」

とはっきり答えられた。

後になってこの質問があまりいい質問ではなかったことに気づくのだが、地域リーグに存在するサポーターの多くが、Jリーグサポーターの経験を持っていたり、地域リーグとJリーグのサポーターを並行して行っているのに対して、品川CC横浜のサポーターにはそういう人がいないようだ。そういう背景があるからか、同じように応援しているように見えながらも、Jリーグサポーターから感じるような悲壮感や禁欲的なムードが「彼ら」からはほとんど感じられない。

私はゴール裏の金網フェンスに「今日作った」という幅15メートルにも及ぶ横断幕を取り付けていた品川CC横浜のサポーターの方に声を掛けた。

横断幕にはスプレーラッカーによる手書きで大きく「首位奪還!!立ち向かえ戦士たち」とある。文字間のバランスも良く、良く見ると実に綺麗な文字。こうした横断幕を作るのに慣れていることが伺える。

「今日の対戦相手、東邦チタニウムに勝てればリーグ首位の眼も見えてくる。だから昨日わざわざ日暮里まで行って白いこの布を70メートルも買っちゃいましたよ」

横断幕に書かれた言葉の勢いに反して、非常に明るく楽しそうに答えてくれた彼の下には、次々とこの試合に「参戦」する仲間が集まってくる。

そして彼は「品川CCは凄く面白いサッカーをするので楽しんで行ってください」という言葉と共に

「僕らの目標はこのチームがJリーグ入りすることです!」と私に言い残して、サポーター応援エリアへと移動していった。

私はこの言葉を聞いた時に、さっき吉田GMに尋ねた「どこかのチームでサポーターをしているメンバーもいるのか」という質問が少し的外れだったことに気づく。

日本代表サポーターをしている人たちが、実はJリーグサポーターもやっているケースは非常に多いものの、やはりそこには明確な「ファン層」の違いは存在していて、少なくとも品川CC横浜サポーターとなっている「infinity」のメンバーについては、そうしたケースがほとんど当てはまらないのだろう。

品川CC横浜サポーターの試合への参加の仕方

試合がはじまると品川CC横浜サポーターたちは、チャントを歌いながら踊ったり、時には少し悪ふざけをしてみたり、実に楽しそうに試合に「参加」している。

ときにサッカーサポーターのチャントが「呪文」や「読経」のように聞こえてしまうのに対して、彼らのスタイルはノリノリのライブ会場に近いものがある。

そして、彼らはチームに対して「首位奪還!」とハッパを掛けながらも、その実、応援そのものを楽しもうとする気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

この日の試合が強豪相手に対しての快勝であったことも、彼らが終始楽しそうに見えていた大きな要因であるのは間違いないのだろうが、「Jリーグ入りすることが目標」と話す一方で「現在地である県リーグでもこれだけ楽しめるんだ」と世間に対して伝えようとしているようにも見えた。

そもそもあの大きな横断幕にしても、彼ら自身がより楽しい気持ちになっていく為、盛り上がっていく為に必要な「演出」なのかも知れない。

「目標はJリーグ」それでも現在地を楽しもうとする姿

現実的に考えれば、品川CC横浜がJリーグクラブとなっていく上で越えて行かなくてはならない山はその頂上が見えてこないくらいに高いものなのかも知れない。

仕組みの上では確かに、現在所属する神奈川県1部リーグからであれば、最短4年でJ3まで上がることは出来る。

しかしそれはあくまでチームの戦力強化においての話だけであって、クラブ運営自体を4年間でJリーグレベルにしていくことは、余程の政治力や資金力がない限りほぼ不可能であろう。

つまり何が言いたいかと言えば、品川CC横浜というチーム、そしてそのサポーターたちにとって、「チームがJリーグ入りを目指している」というこの状況も、今の自分たちの活動を楽しくさせ、さらに仲間を増やしていく為に必要な「スパイス」に過ぎないということ。

Jリーグを目標に掲げるチームでも、現状として県リーグにいるからこそ楽しめる世界がある。それは地域リーグやJFLにしても全く同じことが言えるはずだし、もっと言えば既にJリーグを戦っているチームのサポーターには楽しむことの難しい世界であるのかも知れないのだ。

そしてこの日、品川CC横浜の試合を見ていて、私はこんな風に思った。

「選手もチームスタッフもサポーターも、大の大人が大真面目になって『Jリーグ入り』という夢に向かって楽しそうに遊んでいる」

こう書くと誤解されてしまうかも知れないが、とかく「臥薪嘗胆」な発想に傾きやすい日本のスポーツ界において、こうやって「現在地」を楽しもうとする姿を見せてくれる品川CC横浜サポーターの在り方を私は率直に歓迎しているし、こういう気風が地域リーグや都道府県リーグだけでなく、Jリーグサポーターの間でももっと広がって欲しいと思っている。

何かが成長していくのを共に実感しながら生きていくことが楽しいのは言うまでもないことだが、そんな生活の中での気づきや発見が必ずしもその何かの成長と直結していない場合もあるし、そういう気づきや発見はその瞬間しか感じ取ることの出来ない喜びであったりもするものだ。

品川CC横浜とそのサポーターたちの作る世界が、この先の5年、10年でどう変化し、どう変化しないのか、非常に興味をそそられる。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で