【地獄の関東リーグ】横浜猛蹴 選手たちが自ら作るチームの歩む道

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「地獄の関東リーグ」で一際異彩を放つ存在

 

「地獄の関東リーグ」

この言葉の意味するところは「地域リーグとしては稀に見る群雄割拠が存在し、それだけにそこを勝ち抜くことが容易ではない」というイメージが先行しがちだが、その一方で所属する10チームの顔触れが実に様々で、毎節の様に「思わず注目したくなってしまう」対戦カードを見ることが出来、リーグ全体がひとつの壮大な物語の如く感じられることを偽悪的に表現している節もある。

栃木ウーヴァの様に、ほとんど全ての所属選手がJリーグでプレーした経験のある選手で構成されているチームもあれば、東京23FCの様に、東京の中心をホームタウンとする初のJリーグクラブを目指すべく、コツコツとその歩みを積み重ねてきたチームもある。流経大FCの様に、高校選手権で活躍したばかりの大学1年生だけで陣容を固め、将来性十分の若く勢いのあるチームまであるのだ。

こうした様々なチームが混在するリーグの中で、横浜猛蹴の存在感は一際異彩を放つ。

入団セレクションもない。大きなスポンサーからの経済的支援もない。合同練習が出来るのは平日の夜間、しかも週に1回だけ。選手やスタッフはチーム運営の為に部費を払っている。それでもプロ契約選手の所属しているチームが珍しくない関東サッカーリーグ1部で堂々たる闘いを見せているのだ。

やっと横浜猛蹴のリーグ戦を見る

胸スポンサーのついていないシンプルなブルーのユニフォームをまとう彼らは、いわば「社会人サッカーの象徴」と言ってもいいかも知れない。

2003年にクラブが創設され、2011年に関東サッカーリーグ2部に昇格して以来、既に8シーズンが経過。2016シーズンからは関東1部で戦い続け、昇格初年度には3位という好成績も残している。

そんな横浜猛蹴のリーグ戦を開幕以来観戦する機会が持てずにいた私は、7月も末になってやっと横浜のかもめパークで彼らの闘いを見ることが出来た。

両チームの間に存在する明らかな対格差

 

台風一過の酷暑の中、11時という危険な時間帯にキックオフされた試合で、横浜猛蹴が対戦するのはTOKYO UNITED FC。正真正銘Jリーグ入りを標榜するチームだ。

地域リーグクラブへの加入が大きな話題ともなった元日本代表の岩政大樹選手はこの日もスタメン。他にも保坂一成選手、黄大城選手、永里源気選手、能登正人選手など、元Jリーガーという経歴を持つ選手たちもそこに名を連ねる。

もちろん、TOKYO UNITED FCとて、全ての選手とプロ契約をしている訳でなく、十分なチーム練習が出来ているとは言えないのだろうが、両チームの選手が並び立つのを見ただけで、明らかな体格面での差異が見て取れる。

鍛え上げられた肉体を誇示するかのようにアンダーアーマーのピッタリと身体を覆うユニフォームを着こなす彼らに対して、横浜猛蹴の選手たちの体格からはそうした「威圧感」をほとんど感じない。(とは言っても私のような普通のおっちゃんからすれば羨ましいほどにカッコいいのだが)

しかし一旦ゲームが始まると、横浜猛蹴の「社会人サッカーの象徴」としての一面が、そんな体格面での差異を感じなくなるほどに、私の心を少しずつ掴んでいった。

「しゃべれ!」が必要ない

横浜猛蹴の選手たちは、試合中に非常に良く「しゃべる」

サッカー選手とあらば、試合中のコミュニケーションの重要性は幼い頃から躾けられているので、「もっとしゃべれ!!」という声をGKやリーダー格の選手が叫んでいる光景は良く見られる。

しかし横浜猛蹴の場合、そんな「もっとしゃべれ!!」という叱咤が必要ないくらいに、ほとんど全員の選手が試合中に言葉を発している。

ミスが起きれば、すぐに「ミニ反省会」が数人の間で行われ、プレーが切れれば、ポジションの近い選手同士で身振りを混ぜて会話しているのだ。

ただただ相手ゴールを目指す

前半を0-0で折り返した横浜猛蹴は、後半がはじまってすぐに失点をし、その後も次々とTOKYO UNITED FCにゴールを決められ続けた。

私が最も印象的だったのは、最終的に0-7という大差がついた試合の終盤まで、横浜猛蹴の選手たちの口はしっかりと動き続け、得点こそ奪えなかったものの、0-0だった前半よりもむしろ後半の方が相手ゴール前に迫る攻撃を見せていたことだった。

当然ながら、これだけ点差が開いたゲームであるので、TOKYO UNITED FCの手綱が多少緩んだきらいは拭えない。サッカーにおける攻守のバランスは少なからずそのスコアに影響されるものでもあるだろう。

ただ、横浜猛蹴の選手たちの士気が一瞬下がったように見えたのは、せいぜい2失点目までであったように私には見えた。

それ以降は、3点獲られようが、5点獲られようが、7点獲られようが、彼らは自分たちの力を全て発揮して、ただただ相手ゴールを陥れることだけに集中し、前半と変わらず「しゃべり続けて」いたように思う。きっとそれが横浜猛蹴というチームの流儀なのだろう。

かけがえのない名優

この日の試合では、最後まで彼らは目指すゴールを奪うことが出来なかった。

それどころか、ここまで僅差のゲームを多く繰り広げてこられたのに、前回4月の対戦でドローだった相手に対して7失点もしてしまった。

おそらく彼らはこの次のリーグ戦に向けて、どう戦うべきかを全員で話し合っているはずだ。

入団セレクションもない、大きなスポンサーからの経済的支援もない、彼らがそんな横浜猛蹴というチームでプレーすることを決めたのは、選手として、チームとしての歩む道を自らがサッカーと向き合う姿勢次第でいくらでも変えていけると思えたからだろう。

「地獄の関東リーグ」という物語を語る上で、横浜猛蹴はかけがえのない名優なのだ。

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