恐ろしいチーム
ジョイフル本田つくばFCは本当に恐ろしいチームだ。
つくづくこう思わされたのは、今シーズン2度目。
1度目は西が丘で行われた関東リーグ第6節「TOKYO UNITED FC VS ジョイフル本田つくばFC」戦での彼らの戦いぶりを見た時だったが、流れも悪くしかも前半に先制されながらも、いつの間にかゲームの流れを引き寄せ大逆転勝利をしてみせた。
今回も終わってみればあの時と同じ1-3での勝利。
こういう試合展開はサッカーには良くあるケースでもあろうが、これだけ毎週のようにサッカーを現地観戦している私であっても、なかなか遭遇出来る試合展開ではないし、それを1シーズンの間に同じチームが2度も見せたのだから、これはもう「恐ろしいチーム」と表現してもいいだろう。
今シーズン2度目の東京23FCホーム江戸陸開催試合

クラブグッズ販売ブース 撮影のお願いに快く応じてくれた東京23FCの選手たち
今シーズンの2度目の開催となった江戸川区陸上競技場での東京23FCのホームゲーム。
前回は1500人を超える観客を集め大盛況だった江戸陸も、この日は折からの猛暑もあってかかなり出足が悪い。
どうやら都内で大きな花火大会が行われていることや、地域イベントの開催などが多分に影響している側面もあったそうだが、子どもたちの夏休みが始まった最初の週末だったことを考えると、地域リーグの中では別格ともされている関東サッカーリーグであっても、その観客動員についての厳しい現実を改めて実感させられた。
それでもクラブ側が準備したあらゆる要素、スタグルやクラブグッズ販売、地域の子どもたちを巻き込んだ様々なイベント(エスコートキッズやちびっ子チアのパフォーマンスなど)のひとつひとつが非常に周到に用意されていることがモロに伝わってくる。
この日ばかりはクラブの西村代表をはじめ、全てのクラブスタッフの方々が揃いのカッコいいポロシャツを汗だくにしながら、「ホスト」としての役割に邁進しておられた。
心地よい風と躍動する選手たち

先制点を挙げた飯島秀教選手(9番)
私は前回の江戸陸開催の対栃木ウーヴァ戦では、東京23勝手に実況隊の試合生配信番組のお手伝いでゲストとして実況席にいたので、今回は東京23FCの江戸陸ホームゲームを満喫しようとスタジアム中をウロウロさせて頂いた。
とは言っても、試合中のほとんどの時間はゴールライン際に陣取り一眼レフを構えて選手たちの姿を撮影していたのだが、17:00にキックオフされたこのゲームを眺めながら、時折心地よい風も吹きこむ夏の夕暮れのスタジアムで非常に爽やかな時間を過ごすことが出来た。
爽やかだと私が感じたのは心地よい風のせいだけではなく、眺めている選手たちがいつも以上に躍動しているように見えていたからでもある。
特にこの日の東京23FCの選手たちからは、江戸陸のピッチでプレーすることが嬉しくてしょうがないといった「気持ち」がジンジンと伝わってきた。
おそらくコンディションもかなり良かったはずで、少なくとも私が今シーズン彼らを現地観戦した数試合とは比較にならないほどに、心と身体のバランスが取れていたように思う。
前半はつくばFCの選手たちに考える余裕を与えないほどのプレッシャーを前線から仕掛け、しかもそれがチームとして連動し素晴らしいまでに機能していた。
その中心的存在として、縦横無尽にピッチを駆けていた主将の飯島秀教選手(背番号9)が見事なヘディングシュートで先制点を奪った時には、チームがイメージ通りにゲームを進められているという自信と喜びに満ちた瞬間が訪れていたと思う。
「喜びに満ちたホーム戦」で大逆転負け

しかしながら、東京23FCは後半の早い時間帯に同点に追いつかれ、試合終了間際に2失点を喫し、無残にも「喜びに満ちたホーム戦」で大逆転負けをしてしまった。
何度も決定的ピンチを防いでいたGKの江藤将司選手(背番号99)は、試合終了のホイッスルとともにピッチに顔を伏せ、何度もその拳で芝生を叩いている。
全国社会人サッカー選手権への出場権も逃し、関東サッカーリーグでも既に優勝の可能性は極めて低い、現実的に考えれば、東京23FCが目標としていたJFL昇格という夢は、今シーズン叶うことはないだろう。
それでも彼らは毎朝濃密なトレーニングを続け、日中はそれぞれが生活の糧を得るために社会人としての業務にあたる。
ここをステップにさらに高いレベルでのプレーを目指す選手、もちろん中にはJリーガーを目標とする選手もいるだろうし、再びJの舞台に返り咲こうと誓っている元Jリーガーもいるだろう。
しかしサッカーは11人で行う球技だ。
個人の目標を現実のものとする為には、今いるチームで最大の成果をあげていく必要がある。
サッカー選手は闘い続ける

リーグ戦も折り返し地点を過ぎ、東京23FCの選手たちにはもう過去を振り返っている暇はない。次の1試合の為だけに出来る限りの準備をし、闘う気持ちを作っていくことが求められるのだ。
江藤将司選手がピッチに叩きつけた拳の意味は、決してこの試合の終了間際に逆転ゴールを許してしまったからだけではなかっただろう。
彼はもう何カ月もこのチームで戦い続け、今度こそはと「思えた試合」だったにもかかわらず、またしてもその成果を得られなかったという現実に、打ちのめされそうになっていたように私には見えた。
試合終了後、東京23FCの選手たちがサポーターエリアへ挨拶に行くと、そこからは「俺たちはずっとついていくから!」という声が飛んでいた。
そう、サッカー選手はどんな困難な状況であっても闘い続けるからこそサッカー選手であるのだ。
子どもの瞳に刻まれた記憶が未来のサッカー文化をつくる

受け入れがたい、信じられないような試合結果が突き付けられても、彼らはまたそこから這い上がって闘うしか道はない。
そして、それはそんな彼らを応援するサポーターとて同じ。
チームはまた必ず立ち上がる。
そしてそんな強い男たちの姿がそこにあるからこそ、私たちの心を惹きつけてやまないのだ。
17:00にキックオフされたゲームが終わる頃には、日中の陽射しもすっかり落ち着いていた。
スタンドに集まっていた子どもたちの瞳にも、この爽やかで切ない強い男たちの姿はしっかりと刻まれていく。
そして、ジョイフル本田つくばFCという「恐ろしいチーム」があることも子どもながらに感じとったことだろう。
彼らが少年から青年になり、そして自分の子どもと一緒にここへ来るようになるまでこの世界が続いていけば、日本サッカーは真の意味で「文化」になっていくような気がする。