W杯は終わった…
長かったW杯による中断期間も終わり、7月18日のナイトマッチで一斉にJ1リーグが再開した。
W杯があろうとなかろうと中断期間のないJ2リーグとJ3リーグを観戦していたサッカーファンも多いのかも知れないが、それでも日本のトップカテゴリーであるJ1リーグが「稼働」していると、そこで生まれる熱量の大きさを改めて実感させられる。
「日本代表だけがサッカーじゃない。Jリーグも応援しよう!」は実現しているのか?
とは言うものの、世間一般が大いに注目し、あるいは列島を熱狂に巻き込んだW杯が終わったことで、僅かな哀愁を感じている方もおられるだろう。
「日本代表だけがサッカーじゃない。Jリーグも応援しよう!」
4年に1度のW杯が終わるたびに必ず出現するこうした主旨の言葉も、今回のロシア大会のように日本代表が一定の活躍を見せた場合には、余計に強いメッセージ性を帯びてくる。
では実際にこれまでのW杯開催年度に、Jリーグは一体どの程度関心の度合いを増して行ったのか。
過去Jリーグで観客増の背景にあったもの

公式に発表されているJリーグの観客動員数を元に、日本が初めてW杯に出場した1998年の前年にあたる1997シーズンから、前回ブラジル大会の開催された2014年の翌年2015シーズンまでのJ1リーグ1試合平均観客動員数をグラフにしてみると、そこからはほとんどW杯における日本代表の活躍が及ぼす影響を読み取ることが出来ない。

敢えてその影響が感じられるのは2002年日韓大会くらいで、それにしてもW杯ホスト国としてそれまで存在しなかった大型スタジアムが各地に建設されたことも大いに関連している。
特に顕著なのは2000シーズンから2001シーズンのかけての伸率(142.1%)で、これにはいくつかの具体的要因を挙げることが出来る。
- 浦和レッズが2001シーズンにJ1へ復帰したこと(ただしこのシーズン浦和レッズは埼玉スタジアムをフル使用はしていない)
- FC東京がホームゲームで東京スタジアム(味の素スタジアム)を使用開始したこと(FC東京の観客動員数前年比189%増)
- ヴィッセル神戸がホームゲームで神戸ウイングスタジアム(ノエビアスタジアム神戸)を使用開始したこと(ヴィッセル神戸の観客動員数前年比185%増)
- カシマスタジアムのW杯開催に向けた増設工事が完了し使用開始 約3万人収容人数が増えた(鹿島アントラーズの観客動員数前年比128%増)
他にも細かい要因は考えられるのだろうが、もともと観客数の多かった人気クラブがキャパシティの大きなスタジアムを一斉に使用し始めたことで、リーグ全体の観客増をかなり大きく後押ししたのは紛れもない事実だ。
W杯でJリーグの観客は増えない
これは完全なる私見だが、W杯において日本代表が活躍しようが惨めに敗れてしまおうが、大局的にはJリーグの観客動員数に影響を及ぼすことはないと私は思っている。
先に触れた簡単な数値データを見ただけでもそれを感じ取ることは出来るが、こう思うに至っている最も大きな理由は、実は感覚的な部分も大きい。
日頃Jリーグのスタジアムへ通っているファン層、あるいはシーズン中に数試合程度でもJリーグをスタジアム観戦する習慣のあるファン層と、W杯に関心を持つ人たちはもちろん重なり合っているのだが、W杯に関心を持った人たちのほとんどはJリーグに全く興味のない人たちであるのも事実だろう。

つまり4年に1度のW杯だからこそ、これだけ多くの人たちの注目をサッカーが浴びているのであって、そういう人たちは「サッカーだから」W杯を見ているのではなく、「世間が注目しているから」W杯を見ているだけなのだ。
これはオリンピックでマイナー競技が一時的に注目を浴びながらも、その波が4年に1度しかやってこないのと全く同じ現象であって、私たちがカーリングや体操競技に普段全く興味を持たないことを考えれば、W杯を契機にサッカーファンになる人が決して多くないことは想像するに容易い。
新たなファンを獲得するために常識を捨てろ
ただし、そうは言っても折角サッカーに関心を持ってくれたのだから、シーズンに1試合でもJリーグをスタジアム観戦して欲しいと私も心底思っている。
そしてその為には、Jリーグが今以上に客観的な価値基準で判断されることも不可欠であろう。
例えばJリーグの試合日程についても、新たなファン層を獲得するためには、これまで慣例化してきた「常識」を見直していく必要があるように思う。
9月以降のキックオフ時間の発表が7月の末じゃ「世間的には」遅すぎないか?

Jリーグはシーズン開幕のおよそ1か月前に、対戦カードと試合会場の公式発表を行っている。
2018シーズンについては、W杯が開催されたことでJ1リーグの開幕が2月の後半になったが、2017シーズンが完了したのが2017年12月上旬であることを考えれば、その翌月である2018年1月下旬に日程発表を行うのは限界点でもあっただろうし、良くこの短い期間に諸条件を加味した日程を作成したものだと、感心すらさせられる。
しかしながら、2018シーズンの後半戦、つまり9月以降の日程についてのキックオフ時間は1月下旬の段階では発表されず、今シーズンについては7月26日にシーズン終了までのキックオフ時間をJリーグ側が発表することになっている。
ほとんどのクラブが使用するホームスタジアムが公共施設であり、そうした背景が年間を通したキックオフ時間の発表を難しくしている向きもあるのだろうが、他のプロスポーツに目を向ければ、プロ野球にしてもBリーグにしても、リーグ日程とともに試合開始時間を発表している例の方が多い。
新たに獲得するファン層に対しては、他のプロスポーツとの比較ではなく、他のエンターテインメントの常識を意識した方がいいかも知れない。
人気アーティストの大型ライブや、音楽フェス、ミュージカルや演劇など、チケットを取るのに苦労するようなエンタメであればあるほど、半年先の公演予定を発表し集客するのは珍しい事ではないし、Jリーグが今後関心を持ってくれるファン層を拡大していく為には、こうした「常識」と同じ土俵に立っていかなくてはならない。
既存のファンが身動きの取れなくなるケースも

キックオフ時間の発表が開催日に近くなればなるほど、既存のファンも身動きが取れなくなってしまう場合もある。
Jリーグサポーターはどんなに遠いアウェイ戦であっても「参戦」するツワモノが多いが、彼らに時間やカネの余裕があるわけではなく、忙しい日常を何とか調整し、少しでも余計な出費をしないような行程を熟慮して遠征に臨んでいるのだ。
キックオフ時間が14:00なのか15:00なのか、この僅か1時間の違いが時間とカネの許容範囲を越えさせてしまう場合もあるだろうし、何人かのグループで参戦しようものなら、9月開催分のJリーグ観戦は諦めなくてはいけないケースも出てきてしまうかも知れない。
もちろん、そんな細かなことなどお構いなしに、あくまでもJリーグを最優先で行動出来る人たちもいるのだろうが、そこに基準を合わせてしまっては「世間一般」の常識からは大きく乖離していってしまう。
細かな「Jの常識」を見直していく作業が新たなファン獲得に繋がっていく
「日本代表だけがサッカーじゃない。Jリーグも応援しよう!」
このキャッチフレースが実は無力であることは、Jリーグの観客動員数推移データを元に説明してきたが、それでもJリーグの観客を増やしていく為には「キックオフ時間の発表時期」に象徴されるような、細かな「Jの常識」をひとつひとつ見直していく必要はあるだろう。
そこには私が想像し得ないような障壁があるかも知れないが、だからといってみすみす観客増の機会を逃す手はない。
そしてこうした指摘は、既にJリーグに対して興味や関心の高いファン・サポーターであるからこそ、より的確に出来る事だと思うのだ。