「美人に会える?んだ。んだ。秋田。」
「美人に会える?んだ。んだ。秋田。」
秋田の駅ビルの壁面にはこんなキャッチコピーを使った大きな広告が掲示されている。
「秋田美人」という言葉は広く知られたところではあるが、それを観光キャッチコピーに使ってしまうあたりに秋田市民のそこはかとないユニークさを感じてしまう。
あきぎんスタジアムまでの道のり

私は盛岡の叔母と一緒に新幹線に乗って秋田へやってきた。
前にここへ来たのは今から10年ほど前のことだったが、その時は現地営業所の視察出張だったからか、駅前に連なる「シャッター商店街」の印象が強く残っている。
当時から比べると駅の周辺はやや様相も変わった。
秋田キャッスルホテルに並ぶ広大な「赤十字病院跡地」が何に活用されるかについても、あの当時はまだ二転三転していたと記憶しているが、既にそこにはモダンな美術館と文化交流センターが完成し、そこを中心とした新たな街づくりも進んでいるように見える。
そこを左に見ながら街の中心を東西に走る山王王通り(竿灯大通り)に出ると、8月のはじめに行われる竿灯まつりのための仮設スタンドが広い道路の中央分離帯に組まれていた。
J3リーグ「ブラウブリッツ秋田 VS FC琉球戦」の行われる「あきぎんスタジアム」までは、秋田駅からゆっくり歩いても30分程度。大通りをひたすら西に歩いて行けば辿り着けるのでほとんど迷いようもない。
スタジアムへ到着すると、そこには既に「祭り」の光景が広がっていた。
あきぎんスタジアムで解放される心

爽やかな青のレプリカユニフォームを身にまとった秋田サポーターは、スタグルやクラブグッズ販売ブースに集まり、クラブマスコットのブラウゴンもそんなサポーターたちを相手に愛嬌を振りまいている。
喫煙スペースへ行けば、「帰って来た間瀬監督」の初采配がどんな結果をもたらせるかについてのサポーター談義を聞くことが出来、ついつい私もその話の輪の中に入り、秋田のバスケットボール事情まで聞かせてもらうことになった。
初めてやってきたサッカー場で、自分の意識がこうして積極的に「外側」へと向き「心が解放される」ことは決して珍しいことでもないのだが、あきぎんスタジアムにあった「祭り」ムードがこの日はそうさせたように思う。
「ババヘラ」売りのおばあさんに「何故このアイスクリームはババヘラという名前なのか?」という粗方その答えが予想できそうな質問をしてしまったのも、それはほとんど「祭り」ムードのせいだ。(私みたいなおばあさんを秋田ではババって言うの、ババがへらを使ってアイスを盛るからババヘラなんだよ)
スタジアムの秋田美人たち

喫煙スペースで「秋田バスケ談義」をしたのちにスタンドへ戻ると、グルージャ戦に続いてのJ3観戦となった叔母がこんなことを言ってきた。
「ねえ、昨日に比べてさ、女の子たちがずいぶんお洒落してるよね?高いヒール履いて、つけまつ毛して、ばっちりメイクして、、、」
実はこれについては私もスタジアムに来てすぐに気がついていた。
グルージャのいわぎんスタジアムとこのあきぎんスタジアムでは、観客の動員数こそほとんど同じ数字だったが、その客層がかなり違っているように見えた。
いわぎんでは沢山の少年サッカーの子どもたちの姿が非常に印象に残ったが、あきぎんでは若く身ぎれいにした女性のグループが非常に目立つ。しかも「美人に会える?んだ。んだ。秋田。」まさにその言葉が真実であることを表すように美人だらけだ。
女性たちがお洒落してサッカー観戦に来ている理由は、あきぎんスタジアムが街の中心街にあるからだろう。このロケーションであればいくら炎天下のサッカー観戦であろうとも、ノーメイクにジャージ姿でウロウロすることを「美人に会える?んだ。んだ。秋田。」な女性たちの美意識が許さないはずだ。
東北は美人が多い

しかしそれにしても、この秋田に限らず八戸も盛岡も、街を歩く女性からサッカー観戦している女性まで、本当に良く美人に遭遇した。
北国の女性は色が白く肌のきめが細かいと良く言われているが、それだけでは説明がつかないほど美しい顔をした女性がそこら中を歩いている。
これは仮説だが、こう見えるのはひとえに「東北は美人が多い」という刷り込みが、当の女性たちの美しくあろうとする欲求を相当に高めているのではないだろうか。
八戸の七夕祭りなどは、そんな美人たちの顔を拝みたいばかりに少々長居してしまった気もする。(実際に呑み屋台村みろく横丁の看板娘たちは軒並み美人だった)
後半45分に訪れた静寂

秋田美人の存在は間違いなく集客につながる要素であると思うが、それと同じくらいにあきぎんスタジアムを「祭り」ムードに仕立て上げていたのが、ゴール裏サポーターを中心とした応援の元気な様子と、スタンドのあちこちから聞こえてきた大きな声援や喜怒哀楽の声であったのは間違いのないことだったろう。
とにかくブラウブリッツに肩入れしながら、1プレー1プレーに対して大きくリアクションをするそのムードは、グルージャのいわぎんスタジアムではあまり感じられなかったものだ。
首位FC琉球を相手に新体制で挑む大事な初戦、ブラウブリッツの選手たちは躍動し観客の気持ちに応えるように必死になってボールを追っていた。
その闘志実らず、後半45分に絶望的な先制点を奪われた瞬間、あきぎんスタジアムにはそれまでの活況が幻であったかのような静寂が訪れた。
FC琉球サポーターは私の目算で9名しかいなかったので、この日あきぎんスタジアムにいた観客の99%がブラウブリッツの勝利する姿を見たかったはず。それだけにあのゴールが決まった直後のシーンとしたムードは、アウェイサポの声もそこそこに響いてくるJ1やJ2リーグではなかなか体感出来ないものだろう。
「サッカーと祭りそして美人を堪能したければ、その行先は北東北に決まっている」

かくして、前日に続きホームチームが敗れる姿をスタジアムで観ることになってしまったが、それでもこの秋田へ来たことで「祭り」が人の心を解放し、それによってより幸福感が得られることを身をもって実感することは出来た。
3都市を巡ったこの「みちのくサッカー紀行」は、サッカースタジアムが「祭り」の空間として存在していることが、いかに重要でいかに欠かせない要素であるのか、それを改めて学ぶための旅になったような気がする。
そして、忘れてはいけないことがもうひとつ。
北東北地方には美人が多く、それはサッカー場とて例外ではないこと。
これからはこんな風に言ってみようかとも思う。
「サッカーと祭りそして美人を堪能したければ、その行先は北東北に決まっている」