2日目は盛岡で
前日に八戸でJFLと七夕祭りを堪能し、その晩のうちに盛岡の叔母のところに移動していた私は、15:00キックオフのJ3リーグ「グルージャ盛岡 VS SC相模原戦」の前にどうしても行っておきたいところがあった。
車を借り、盛岡駅に近い叔母の家から4号線を30分ほど南下。目的の場所は東北本線の紫波中央駅からほど近い岩手県フットボールセンター。今日はそこで東北社会人リーグ2部のリーグ戦が行われているのだ。
東北社会人リーグ2部を観戦

東北社会人リーグ2部は南北で2つのリーグに分かれて行われている。
2部南リーグは宮城県、山形県、福島県が対象エリアとなっており、あの「いわきFC」が現在所属しているリーグであることから最近は注目を浴びる機会も増えている。
2部北リーグは岩手県、秋田県、青森県が対象エリアで、この日は大宮サッカークラブと水沢サッカークラブという岩手県勢同士の対戦を見ることが出来た。
両チームの選手リストを見るとほぼ全員が岩手県出身者で、大宮サッカークラブは数年前に岩手県代表として正月の高校選手権に出場した県立不来方高校のOBが多く、一方の水沢サッカークラブはその下部組織ユース出身選手が多勢を占めているという違いがある。
試合は大宮サッカークラブがやや優勢に進め1点を先行しながらも、終盤にかけてテクニカルな選手の多い水沢サッカークラブが反撃に出て同点に追いつくというなかなか見どころのある試合でもあったのだが、そんな試合内容はさることながら、それを越える衝撃を私にもたらしたのはこの岩手県フットボールセンターの非常に充実した施設と環境であった。
岩手県フットボールセンター その素晴らしい環境

人口流失に悩む地方自治体(岩手県紫波町)が「公民連携」で取り組んだ新たな街づくり。その一環として区画の中心部分にいくつかのスポーツ施設も作られ、その中に人工芝ピッチのサッカー場も含まれていた。
綺麗な街並みの中にあるサッカー場にはアウトドア用の椅子を持参した「観客」も数名。ピッチ脇には2階建ての洒落たクラブハウスも建っており居心地もいい。
周辺には美しい住宅街とともに、図書館や産直品を扱っているマルシェもある。
ゆったりとした週末を過ごせる空間に、しっかりとスポーツも組み込まれている。そんな光景をまさか盛岡の近郊で見ることが出来るとは思っていなかった。
こんな場所にあるサッカー場であれば、いくら人口減が叫ばれている岩手であってもフル活用されているようで、この日も朝からナイターの時間帯まで利用予定が埋められていた。
本当に食べ物なんて売っているの?

試合が終わり、今度はいよいよJ3リーグ観戦するためにいわぎんスタジアムへと移動する。
さっき走ってきた4号線を今度は盛岡駅方向に北上し、周りが田んぼで囲まれたスタジアムへ到着。
叔母は盛岡に長く暮らしながら、グルージャの試合をここに見に来るのは初めてで(犬の散歩ではしょっちゅう来ていたらしい。つまりそれくらい近くに住んでいる)私が「食べ物はスタジアムでも売っている」と言ってもはじめは信じてくれなかった。
盛岡の人にとって「いわぎんスタジアム」は「盛岡南公園」であり、そこに対戦相手のサポーターが大勢来たり、スタグルの出店が出たりするのはなかなかイメージしにくい事のようだ。
ノリきれない盛岡

無事にスタグルで「盛岡冷麺」を食べスタンドに回ると、試合前のアトラクションとして大原学園盛岡校の学生による「さんさ踊り」が披露された。
スタジアムDJの勢いのあるMCや、キヅールの登場、そしてゴール裏に陣取るグルージャサポーターのチャント、こうしたいかにも「Jリーグらしい要素」がスタジアムで表現されていく中で、どうも私には盛岡の人たちがイマイチそこにノリきれていないような印象を持ってしまった。
この日の試合の冠スポンサーが配布した応援用のバルーンスティックも、こうした「ノリきれない」盛岡の人々に何とか試合を楽しんで応援してもらおうという苦肉の策だったのかも知れない。
苦しむグルージャ盛岡

試合はほとんど良いところがないままグルージャが0-3で完敗。
せめて1点くらいは集まった盛岡の人たちに見せて欲しかったが、ゴールの匂いすらさせないまま90分間が経過していってしまった。
グルージャ盛岡がJ3リーグで苦しんでいる(成績面も観客動員面も)のは、彼らがJFLという全国リーグを経験することなく東北社会人リーグからいきなりJ3リーグ入りしてしまったことが多分に影響しているという論調は良く耳にする。
確かにそうした側面は否定できないだろう。「プロとはなんぞや」ということを考える間もなく、その環境に身を置くこととなったクラブの悲哀も感じなくはない。
しかし私はそれ以上に、この盛岡という街に暮らす人々がグルージャ盛岡というJリーグクラブを十分に楽しむ術を身につけていない様にも見えていた。
グルージャ盛岡を楽しむ術

この日いわぎんスタジアムに集まった観客は約1,300人ほど。勿論この人数はJ3リーグであっても決して多い数とは言い難いが、「祭り」のムードを作り出すのには十分な人数だとも言える。
確かにグルージャ盛岡は毎年のように下位争いをしているし、仮に優勝したところでJ2クラブライセンスも交付されていないのでJ2昇格も叶わない。
現状のレギュレーションではどんな成績に終わろうとも降格も昇格もない「J3に居続けなくてはいけないクラブ」であるのも実情。
そういうクラブを応援する時に、そこにどんな価値を見いだすことが出来るか。
これは何もグルージャだけに言えることではなく、あらゆるクラブ、あらゆるスポーツ応援においても同じようなことが言えるのではないか。
「行く先に見える明るい未来への期待」だけがスポーツの唯一の価値と私は思わない。
何故ならスポーツ本来の輝きは、彼の将来の姿ではなく、彼が見せる今この瞬間にこそ凝縮されていると思うからだ。
岩手県フットボールセンターのような素晴らしいサッカー場を作った人たちが、そうした価値を分かっていないはずがない。
今はまだどうやって楽しむか、それを身につけようとしている段階なのだろう。