急遽1日早く東北へ
日本全国が猛暑に喘ぐ中、快晴の八戸には時折涼しい爽やかな風が吹いていた。
盛岡に暮らす叔母を訪ねがてら週末のJ3リーグを2試合観戦する計画を立てたのは今シーズンが開幕して直ぐの頃だったと思うが、このブログにもリンクを貼っている「フットボールカレンダー」を新たに制作する段階になって、3連休の初日に八戸でJFLが観戦出来ることに気づき、急遽1日早く東北へ行くことにした。
目指すは八戸「ダイハツスタジアム」

数年前に八戸に出来たダイハツスタジアムは、JFLヴァンラーレ八戸のホームスタジアムであり、彼らがJ3リーグへ昇格する上で必要なラストピース。
芝生席を含めれば5,000人を収容できるサッカー専用スタジアムだ。
しかしこの日は主であるヴァンラーレが龍ヶ崎に遠征しており、同じ青森県を本拠とするラインメール青森とホンダロックの対戦が行われた。
東北は祭りの季節

八戸の中心は東北新幹線の八戸駅からはやや離れた場所にあり、ダイハツスタジアム周辺へ行こうとしても、その中心である本八戸駅からでないと路線バスも走っていない。
八戸駅と本八戸駅とを結ぶ鉄道の本数も少なく、仕方なく行きの行程はタクシーに頼ることにした。
これは先日訪れた女川でも感じたことだが、港町の人々はよそ者に慣れているような気がする。
この日乗ったタクシーの運転手も今日が八戸の七夕祭りがはじまる日で、8月の頭に行われるねぶた祭までの季節が、このみちのくの地方都市をいかに熱気に溢れたものにするのかを丁寧に説明してくれた。
それでも彼はダイハツスタジアムでJFLが行われることは全く知らないようだ。
今日戦うのが地元南部のヴァンラーレではなく、津軽のラインメールであるのだからそれも致し方なしといった所なのだろう。
ラインメール青森VSホンダロック 観衆111人

30分弱乗車してやっと到着したダイハツスタジアムは長閑な田園風景の中にひっそりとあり、そこでこれからJFLの公式戦が行われるとは思えないほど。
それもそのはずでこの日の観衆は111人。選手や両クラブの関係者、当日の運営ボランティアの少年たちを足せば、この観客の人数など簡単に超えてしまう。
青森からやって来たラインメールサポーターの軽快な「ラッセラー」チャントが聞こえることで、辛うじてここがサッカースタジアムであるという事実を思い出させてはくれるが、正直に言えば試合が終了するまで「新幹線に乗って関東からやってきた」自分自身の存在を何となく気恥しく感じないこともなかった。
試合が終わると集まっていた111人の観客はスタジアム脇の駐車場に停めた車で次々と帰路についていく。そうなるとサッカースタジアムにある試合後の余韻にふけるムードも、あっという間に消えて行ってしまう。
私は東北新幹線に乗るために八戸駅へ戻るつもりであったのを変更して、行きのタクシーで運転手が話していた八戸の七夕祭りを見るために、市の中心街へ路線バスで向かうことにした。
八戸の七夕祭りは大賑わい

陽がまだ出ている時間帯であったにもかかわらず、八戸の七夕祭りは大勢の人で賑わっていた。
目抜き通りには大きな七夕飾りが揺れ、どの出店も大量の食べ物を店先に並べ、そこに人が群がっている。
通りの丁度真ん中あたりにある「みろく横丁」という飲み屋台村では、老いも若きも既に気持ちよさそうに一杯やっている。
八戸の七夕祭りは3日間行われ、例年30万~40万人の人出があるそう。
市の人口が22万人ほどであることを考えると、この動員力にただただ驚くばかりだが、私は同じ町の外れで行われていたサッカーの試合がわずか111人の観客を集めるにとどまっている実態を見たばかりだったこともあって、このふたつの「祭り」の間に存在する歴然たる差を突き付けられているようでありながらも、七夕祭りの行われている空間からは祭り独特の気持ちの高揚感、そして妙な居心地の良さを感じ、予定よりも随分長く八戸に滞在することになってしまった。
祭りの本質「人は人が大勢集まると楽しくなる」

良く考えれば、この八戸の七夕祭りにしてみても、集まる人たちがそこで何をしているという訳ではない。
学生は仲のいい友人たちとつるんで通りを練り歩き、幼い子ども連れた家族は歩道の縁に腰かけてかき氷や冷えたビールを楽しんでいる。
偶然顔を合わせた知り合いとはいつもより少し長めの挨拶を交わし、子どもたちの拙いお囃子がはじまればそこに足を止めて終わりまで眺めている。
ねぶたや竿灯まつりのような明らかなる「観覧対象」がなくても、人は人が大勢集まっているという状況があるだけで何となく楽しい気分になり、何となく財布の紐も緩むのだろう。
こう考えるとダイハツスタジアムが5,000人の観客で一杯になれば、そこで行われているのが例えJFLであろうとも「祭り」のムードを作ることは十分可能だとも思えてくる。
人は人が大勢集まると楽しくなる。
急遽1日早く訪れたみちのくで、期せずして「祭り」の本質を実感出来た気がする。