W杯は心の奥底にアイデンテティを呼び起こす
グローバル化の波がもたらせたものは「ヒト・モノ・カネ」が地球上をボーダレスに流動する世界だった。
今や世界的大企業に「国籍」という概念は全くそぐわないものとなり、そこで生きる人々に抱くイメージは、まさに「コスモポリタン」であると言っていいだろう。
一方で民族間・宗教間における争いが絶えないことにも現れているように、多くの人々が生きていく上で背負わざるを得ない「属性」が、時として彼に生きる指針を示しているのも事実。
そう考えると、ロシアで開催されているW杯が、ある意味でそれを見る人々の心の中に自らの「属性」という純然たる事実を突きつけてくる機会であるのかも知れない。

日本サッカー協会に対する釈然としない思いを抱きながらも、多くの「日本人」サッカーファンは、青いユニフォームを身にまとった「代表」の戦いぶりに注目をする。
出場32か国に入らなかった国であっても、自らのアイデンテティを出場国のいずれかに「仮置き」しながら、この4年に1度の祭りを堪能しているだろう。
欧州の強豪クラブが世界中のスター選手を買いあさり、もはやマンチェスター・シティは英国にありながら英国人プレイヤーがほとんどいないチームであり、それはバルセロナにしてもレアルマドリーにしてもバイエルンにしても同じような実情が存在している。
日常にあるクラブのサッカーに対して、その「属性」を見い出しにくい環境が進んでいくにつれ、「国籍」という「属性縛り」が存在するナショナルチーム同士の世界大会だけが、彼らの心の奥底に存在するアイデンテティを呼び起こすチャンスとなっているのかも知れない。
そして、W杯がこれほどまでに世界中の人々の心を掴んでいる理由は、まさにこの「属性」をこれほどまでに生々しく感じさせる機会が、現代社会において戦争以外に存在しないからではないかと思ったりもする。
ドイツを下したメキシコの姿

いずれにせよ、私自身がW杯ロシア大会に出場する全てのチームから、日常の中にあるサッカーでは感じることが難しくなった「クセの強い個性」を感じているのは確かで、そのクセとクセがぶつかり合ったり、騙し合ったりする姿にフットボールの奥深さを感じ、寝る間を惜しんでまでも毎晩のように画面にクギ付けとなっているのだと思う。
チチャリートに最も似合うユニフォーム
それにしても、前回優勝国のドイツを見事に打ち破ったメキシコの戦いぶりについては、フットボールを堪能するという域を越え、心を強く揺るがされた。
特に試合終了と同時に顔をクシャクシャにして、その喜びを表現したハビエル・エルナンデス(チチャリート)のプレーには、この試合に勝つためだけに彼の全てのキャリアがあったのかと錯覚するほどに猛然と、そして冷静に戦う姿勢が見て取れた。
マンチェスターU.、レアルマドリー、レバークーゼン、そして現在所属するウェストハムと、欧州のトップカテゴリーで数々の栄光を掴んできたこのメキシコの英雄に最も似合うユニフォームが、あの国旗を模したグリーンのユニフォームであることを感じられただけでも、あの素晴らしい試合を見た価値があった。
チチャリートだけではない、あの試合を戦ったメキシコの選手たちは誰もがあのユニフォームを見事に着こなし、男惚れするほどに猛勇に見えた。
日本人にメキシコのユニフォームは似合わない

このドイツ戦がそうであったように、体格面での不利をものともせず立ち向かっていくメキシコサッカーを以て、日本サッカーの目指すべき姿とされることも多かったが、私はこの試合を見たことで、それが淡い幻想であるという確信にも近い思いを持つに至った。
スペイン人による暴虐によって滅亡し、絶滅の危機にも瀕したアステカ帝国の末裔たちは、確かにユーラシア大陸からアメリカ大陸に渡ったモンゴロイド(アジア系人種)であるとも言われているが、浅黒い肌と黒い髪の色をした精悍な男たちであるからこそ、あのユニフォームがあれほどまでに美しく見えるのであって、これを日本人が真似したところで、それは所詮コスプレであるのだ。
メキシコに限らず、ドイツの白いユニフォームにしても、イタリアの地中海ブルーのユニフォームにしても、スペインの真紅のユニフォームにしても、日本人であるからこそ、それらを着こなすことは絶対に出来ない。
日本人に似合うユニフォームは唯一、あの青いユニフォームであって、サムライブルーが目指すべき姿は世界中の何処にも存在などしていないのだ。
我々にしか出来ないフットボール(蹴球)

こう書くと、フットボールの戦術に造詣の深い諸兄からは叱られてしまいそうだが、私が言いたいのは何も「自分たちのサッカー」などと言う薄っぺらい概念についてではないし、「オールジャパン」という言葉でロシア大会に挑む代表チームを送り出したJFAを肯定したい訳でもない。
35万人足らずの小国でありながらアルゼンチンを追い詰めたアイスランドにも彼らにしか出来ないフットボールが存在し、ビール会社がスポンサードしていることを理由にマン・オブ・ザ・マッチの受賞を辞退する選手がいる国にも彼らにしか出来ないフットボールが存在する。
同じように南北に長いこの東洋の島国にも、そこに息づいている歴史や文化が裏付けされた「蹴球」の姿があって然るべきだと私は思うのだ。
それは簡単に獲得出来るものでもないだろうし、もしかしたら終ぞ手に入れることが出来ないものであるのかも知れない。しかし仮にそうであったとしても、確実に日本にもフットボールの歴史が紡がれている。
W杯で成果を挙げることが全てではない。
重要なのは我々にしか出来ないフットボールを追求していく姿勢なのではないか。
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