いよいよW杯ロシア大会が開幕した。
出場国中、最もFIFAランクの低い開催国ロシアが、これ以上ないほどに華々しい圧勝劇で開幕戦を制し、モスクワから遠く離れた極東のこの国でも、この4年に1度のサッカーの祭典に対して大きな期待をもたらせるのに十分なオープニングであった。
目に眩しい真っ赤なユニフォームを身にまとったロシア選手たちのこの大会に賭けた熱い思い、そしてしっかりと訓練されてきたのであろうそのスピード感ある戦いぶりは、その相手がアジア最終予選で我が日本代表と出場権を争ったライバルチームであったことなどすっかり忘れさせるほどに爽快で、改めてロシアという国のフットボールの底力を感じさせるものだったが、この試合を観戦していた多くのサッカーファンにとっては、そんなロシアの素晴らしい試合内容以上にひとつの嬉しい衝撃がもたらされた。
それが、NHKが今大会に向けてサービスを開始したアプリケーション「NHK FIFA ワールドカップ」である。
「NHK FIFA ワールドカップ」のココが凄い

アプリケーション紹介ページ
この「NHK FIFA ワールドカップ」は、スマートフォンアプリとして誰もが無料でダウンロード可能で、ほぼ同様のコンテンツをNHKのウェブサイト上でも楽しむことが出来る。
大会・試合に関する情報量については、日頃DAZNでJリーグを視聴している私たちにとっては「本当に無料でいいの?」と思ってしまうほどにキメが細かく、その中でも特に試合の映像面については革新的と言えるほどに素晴らしいものとなっている。
未だこの「NHK FIFA ワールドカップ」をご覧になられていない方も多いと思うので、ITに疎い私なりにこのサービスの凄い部分を箇条書きにしてみようと思う。
データ情報
■大会を通しての数値データ(ゴール数は勿論、パス成功率、走行距離、などの個人スタッツも)がリアルタイムで更新され、チーム別データも見ることが出来る
■出場全選手のプロフィール、今大会の個人成績や動画情報が簡単に閲覧出来る(いわゆる選手名鑑は要らないかも)
■開催都市、スタジアムについての情報(FIFAによる解説を翻訳したもの)が動画も含めインプットされている
試合や選手、現地の情報に関する詳細なデータをこれほどまで手軽に手に入れることが出来ることに感動されている方も多いだろうが、それが大会が進むにつれデータ更新されていくとなれば、もはや分厚い「選手名鑑」や「大会ガイド本」はほとんど不要だと言える。個人的には現地の天候までもが情報として盛り込まれている部分に制作者のサッカーに対する認識の高さを感じた。(サッカーの公式試合記録には天候が必ず記されている)
スマホ1台あれば、試合観戦を楽しむ上で必要な一般的データを誰もが見られる時代になるとは、W杯の価値を改めて思い知らされた気がする。
そして次に、この「NHK FIFA ワールドカップ」が多くのサッカーファンに衝撃を与えた大要因について触れて行こう。
動画(試合映像)
開幕戦でこのアプリを使っていた人々を最も驚かせたのは、この「NHK FIFA ワールドカップ」が配信する試合映像の革新性だ。
その凄さを端的に言えば「丸はだか」
スマホアプリ上で、ライブ配信されている試合をあらゆる「アングル」で堪能出来るのだ。
■「戦術カメラ」ゴール裏の高い位置からピッチをほぼフルコートで視聴することが出来る。テレビ観戦の場合に良く言われる「画面に見えていない所にいる選手の動きが見えない」についてのストレスがほぼ生じないどころか、ピッチのほぼ全域を視野に入れることが出来るので、現地で観戦しているよりも「俯瞰」がしやすいようにすら感じる。
■「ワイヤーカメラ」ピッチ上空にセットされたワイヤーカメラが撮影している映像を見ることが出来る。戦術カメラよりもプレーエリアに近く迫力あり、まるでスタジアムの中を鳥になって自由に飛んでいるような気分になれる。
この他、ゴールシーンなどをリプレイで視聴する際には10以上の「アングル」で撮影されている映像を見ることも出来る。
そしてこれらの試合映像は配信から一定期間「見逃し」で視聴することが可能なので、名勝負を繰り返し見るとしても、全く違う映像で楽しむことも可能だ。
ただし、現状のシステムでは1日に4時間程度のライブ配信が技術的な限度であるらしく、64試合のうちの半分、32試合のみがライブ配信される予定となっている。しかし例えそうであっても、多くのサッカーファンにとって今回のW杯が、試合映像を楽しむ面においては革新的な大会となるのは間違いないだろう。
「NHK FIFA ワールドカップ」が日本のサッカー市場を変えていくかも知れない

私がこの「NHK FIFA ワールドカップ」を評価し、諸手を挙げて喜んでいるのには、もちろん自分自身が今大会を楽しむ上での大きな「術」を得たことも理由のひとつであるのは間違いのないことだが、この「NHK FIFA ワールドカップ」がより多くの人々にしっかりと評価されることで、サッカーというコンテンツの将来性も大きく変わっていくように思ったからだ。
エンターテインメントとしてのスポーツは、そこにより多くの人々が価値を見いだしてもらえるかが肝要だ。
今回はW杯という世界的にも他の追随を許さないほどのビッグイベントではあるものの、この「NHK FIFA ワールドカップ」によって、また新たなファン層を獲得するであろうことは容易に予想できる。
このW杯が契機になるのか
こうして新たなファンとなった人たちは、決して「試合そのもの」や「スター選手」に惹きつけられた人ばかりだとは言えない。言って見れば「試合に付随する価値」つまりW杯に対する「付加価値」に面白さを見いだしているとも言えるのだ。
であれば、その中心にあるコンテンツ、試合のレベルや規模がW杯クラスでなくとも、例えばJリーグでもこうした技術がスマホアプリなどで手軽に楽しめる環境となれば、新たなJリーグファン、新たなサッカーファンを生み出す可能性は十分にあると私は思うし、さらに言えば、ネットを媒介にしているという特性が、拡散力をもたらせ共有性も高めていく。
莫大な資金を投入し、放映権を得た放送局にとって、試合の映像をこうまでも簡単に「投げ売り」する狙いは、既存のサッカーファン、W杯ファンを凌駕するような市場の拡大と、それに伴うコンテンツの価値向上を狙ったものであることは明らかだし、それこそが正しい映像メディアとしての役割なのではないだろうか。
巷では早くもこのアプリによってNHKの受信料が値上がりするのでは?といった危惧も聞かれるが、「NHK FIFA ワールドカップ」のあるW杯をなるべく多くの人々が十分に堪能することで、日本のスポーツ映像メディアの将来に向けた在り方に一石を投じることに繋がって欲しいと私は思っている。
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