「子どもを英雄にして帰す」東京港区 ポートキッカーズのミッション

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「子どもを英雄にして帰す」

東京タワーの麓にある人工芝のサッカー場を練習場としている少年サッカークラブの指導者がこんな言葉を口にした。

港区の少年サッカーチーム「ポートキッカーズ」

 

1980年に港区で誕生したポートキッカーズは、これまで一貫してサッカー協会に所属することなく活動してきた。

クラブ創設時の代表だった小児科医が「水や空気と同じように子どもたちには走り回る場所が必要である」というポリシーを唱え、クラブにかかわる大人たちは子どもたちの為にほとんど空き地のない東京のど真ん中でグラウンド確保に奔走した。

およそ40年というクラブの歴史の中で、少年サッカーの在り方も大きく変わっていった。

Jリーグ誕生の影響も大きかったのかも知れないが、それが小学生年代であっても競技性を重視するクラブの存在感が増していき、協会主催の少年リーグに参加していないクラブには子どもが集まりにくい傾向も顕著になっていった。

それでもその時代の大波に飲まれることなくクラブが存続し続けた理由は、創設以来その基本ポリシーが全く揺らぐことなく、子どもにとっても大人にとっても、そこが居心地の良い場所としてあり続けたことに他ならない。

 

笛を吹かないコーチたち

 

現在、子どもたちの「コーチ」をしているのは、その保護者とクラブで育ったOBたちだ。

「コーチ」といっても、少年サッカーに見られるいわゆるコーチ像とはずいぶん違っているようにも見える。

まず彼らは練習中に笛をほとんど使わない。

そして、クラブOBは別として、保護者コーチの中にはサッカー未経験の方もいる。

彼らは子どもたちと安全に活き活きと「遊ぶ」ことを目的としているので、子どものプレーを叱責するようなこともないし、大声を出して子どもたちを集合させるようなこともしない。そうであるからこそ、笛の音で子どもたちを「管理」する必要性も生まれにくい。

それだけに彼らの練習風景に見られる光景は「教える」「指導する」というようなものではなく「子どもと大人が一緒に遊んでいる光景」そのものだ。

 

幼児クラスのコーチはスター

今年でスタート2年目の幼児クラスでは、もはや「ボールを蹴る」というサッカーの特性にすらこだわっていないかのように、ひたすら幼児と戯れることに大人たちが「集中」している。

幼児クラスの主任コーチをしているSくんは現在29歳。ポートキッカーズのOBで保育士としての経験も持っている。

彼は子どもたちにとってのスターだ(もしかしたら保護者の方もそう思っているかも知れない)

自分がどのゴールにボールを入れれば良いのかすら理解出来ていない幼児の中に入り、常にその輪の中心で視線を一心に集めている。

「初めて練習に来た日は普通の服で参加していた子が、次の時にはサッカーシューズを履いて、またその次の時はサッカーシャツを着てやってくるんです。この子もサッカーが好きになってくれたのかなって、凄く嬉しい瞬間ですね」

彼が「真面目」に幼児と遊んだこともあってか、今では沢山の幼児が集まり、それが小学生会員の増加にも繋がっているそうだ。

 

運動会を終えて走ってくる少年たち

 

この日は港区立の小学校が軒並み運動会を開催していて、いつもなら子どもたちで一杯になっているはずのグラウンドに小学生の姿がほとんどなかった。

しかし、時間が経過するにつれ、運動会を終えた少年たちがひとり、またひとりと駆け足でやってくる。

彼らは練習開始に遅れたことで駆け足をしているのではなく、一刻も早く練習に合流したくて走ってくるのだ。

「コーチ、準備運動はグラウンド何週走ればいい?」

そんな風に聞かれたコーチは

「キミらはもう運動会で走ってきたんだろ?柔軟体操をしたら入っておいで」

少年たちは誰が一番数多くボールを触れられるかを競うかのように、我先にボールへアタックする。

まさに「走り回る場所」を与えられた子どもたちが、水を飲むように、空気を吸うように、緑の人工芝の上を駆け回る。

 

「大人のため」の少年スポーツクラブ

 

競技性を重視するクラブの多くは、実はそうせざる得ない背景を抱えている場合が多い。

指導コーチの報酬を確保する為に大勢の子どもから会費を集める必要があり、子どもをより多く集める為の「広告」としてチームの実力の高さを訴求する必要があるのだ。

もちろん、子どもが(保護者が)自分が入るサッカークラブを決める上での指標が、チームの強さだけにあるとは限らないが、実情として「強いこと」が最も訴求力のある要素にもなっている。

そうした背景があるために、彼らはなるべく幼い段階にある子どもを大々的に募集し、クラブへと誘い込む。非常に嫌な言い方になるが、大勢いる幼い子どもたちは「コーチの報酬」を確保する為の要員となり、チーム自体は中学年、高学年と進級していく度に、そんな子どもを篩(ふるい)にかけていく。

訴求出来るだけの戦績を残すためには、上手な子どもしか必要ないからだ。

こうした少年スポーツクラブにとって、子どもたちは「英雄」ではなく「大人のため」に存在する「道具」としての役割を担っていると言ってしまっても良いのではないだろうか。

 

「篩(ふるい)にかけられる」か「英雄になる」か

 

ポートキッカーズの卒業生で有名なサッカー選手になった人はいない。それでも彼らは子どもとサッカーをする為にグラウンドへ帰ってくる。

小学生の練習に、OB高校生やOB大学生、SくんのようなアラサーOBやアラフォーOBも、保護者や既に自分の子どもは遥か前に卒業してしまった「おじいちゃん世代」の大人たちまでも参加している。

彼らは子どもたちが安全に活き活きと走り回ることを最も大事にし「子どもたちを英雄にして帰す」事こそが与えられたミッションであると認識している。

日本社会がスポーツの価値をさらに高めようとしていく時に、どれだけ多くの人がスポーツと共に幸せな成長を遂げられるかが非常に重要であるように思う。

「篩にかけられる」のと「英雄になる」のとでは、どちらがよりスポーツを愛する大人を育てることが出来るだろうか。

 

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