松本という街は、今は亡き我が父が大学生活を送った場所でもあり、幼い頃から漠然と親しみを感じていた。
以降現在に至るまで、仕事の用事で何度か出張したことはあっても、私の20年に渡るJリーグ空白期間の真っただ中に地域リーグからJリーグの舞台までそのステージを徐々に上ってきた松本山雅FCの試合を観戦する機会などあるはずもなく、それでもこの1年の間で伝え聞くこのクラブの様々な情報からは「必ずアルウィンへ行くべし」と誘われているような錯覚すら覚えていた。
初めて松本山雅を知ったのは

私が松本山雅FCというクラブの存在を知ったのは、確かこのクラブが地域リーグ(北信越リーグ)に所属していた時代だったと思う。
爽やかな緑色のユニフォームの胸にはEPSONの文字が白く光り、地域リーグにはおおよそ似つかわしくない立派で美しいスタジアムで戦っているクラブ。
それが彼らに対する最初の印象だった。
今にして思えば、地域リーグのサッカークラブの具体的な姿を見たのはこの時が初めての機会であったような気もする。
あれから時を経て、松本山雅はJリーグにとって大切なクラブのひとつとなるまでに大きくなった。
アルウィンへ行こう
人口20万足らずのこの地方都市にあるサッカークラブが、ホームゲームで毎試合1万人を超えるファン、サポーターが集めている(J1に在籍した2015年シーズンの平均観客動員数は16,000人超)という事実だけを見ても、山雅がJリーグだけでなく、松本という街にとっても大切なクラブとなっているであろうことは十分に想像がつく。
私は「必ずアルウィンへ行くべし」という「誘い」に屈するべく、松本へ、初めてのアルウィンへ向かうことを決めた。
幸せに満ち溢れた世界

松本で私が体感した「松本山雅」は、久しく感じにくくなってしまっていた「サッカーの愛されている空間」を感じるには十分すぎるほどに、幸せに満ち溢れた世界だった。
クラブスポンサーのアルピコが運行している乗り心地の素晴らしいシャトルバスに乗ると30分ほどでサッカースタジアム「アルウィン」のある、松本平広域公園に到着する。
到着するまでの車窓からは、青々と成長し始めている水田と、今まさに収穫を待っている麦畑とが交互にその姿を見せる。そんな長閑な風景を眺めていると、大型旅客機が天空に向かい飛び立つ姿が突如として視界に入り、スタジアムと隣接するようにして空港が存在することを改めて思い出させる。
バスと並走するように自転車を漕いでいる年老いたサポーターの、初夏の日差しを身体いっぱいに浴びている姿が視界に入ってくることで、いよいよスタジアムがすぐそこに迫っているという実感が湧き、私の感情を少しずつ昂らせていく。
公園には既に深緑のレプリカユニフォームを身につけた大勢のサポーターたちで溢れかえっていた。
「祭り」が始まる!

自転車を漕いでいた老人も、幼い子どもも、男も女も、その顔はこれから始まる「祭り」が楽しみでしょうがないといった様子で、どの顔も皆キラキラ輝いているようにすら見える。
小高い丘の上に位置するスタジアムへと向かう人の波が、そこに近づいていくほどにその足の運びが速めてていく。
スタンド周りでは、そこかしこで家族や仲間同士の輪が生まれ、「我がチーム」松本山雅の試合が始まるのを今か今かと待ちわびている。
アルウィンに行かれたことのある方であれば余計に理解していただけるだろうが、アルウィンはすり鉢状の構造をしている為、スタンド上層にある入り口から中に入った瞬間にスタジアム全体が一遍に眼下に入ってくる。緑のピッチは遥か下の方に見え、そこでウォーミングアップをする選手も、彼らに声援を送っているゴール裏サポーターの姿も、一望に出来るので実に壮観だ。
それだけにスタジアム全体が松本山雅の応援を心から楽しんでいるであろうことも一瞬で理解することが出来る。
松本に山雅が存在する意味

こんな風にサッカーが愛され、松本山雅が愛されている空間で戦う選手たちは、それに全力で応えようとする。猛烈な暑さの中で厳しい戦いに打ち勝ち、栃木SCを1-0で退けた山雅だったが、いつもこんな素晴らしい試合結果が得られるわけではない(現時点で今シーズンのホームゲームで山雅は無敗を継続しているが)のは当たり前のことだ。
時には目を覆いたくなるような哀れな戦いもあっただろうし、不甲斐ない戦いをチームが見せてしまったこともあったはずだ。それでも、この松本という小さな街に松本山雅というサッカークラブが存在するからこそ、沢山の人々の生活に彩りをもたらせていることは間違いのないことだし、それこそがサッカークラブの存在する最大の意味だと言ってしまってもいいだろう。
アルウィンへ帰りたい

試合が終わると、今度はスタジアムのある丘の上から、それぞれがそれぞれの帰り道へと散らばっていく。そしてそれぞれが再び日常へと戻り「祭り」の感慨に更けながら、次の「祭り」へと思いを馳せるのだろう。
先の大戦で大きな空襲を免れた為、古く味わい深い建物が数多くの残るこの街にある日常は、きっと穏やかで、都会にあるような喧騒が感じられることもほとんどないだろう。
そして、そんな松本という街の魅力は、松本山雅が誕生する遥か前からこの街に息づいてきた確かなものでもあるのだ。
ただ、そんな穏やかで美しい街に、人々の心を揺るがせる松本山雅というサッカークラブが存在することは、この街にとって既に「誇り」となりつつあるようにも感じる。
亡き父にとって第二の故郷とも言えるこの松本という街が、私にとっても「帰りたい街」となった。
再びあの丘を登り、アルウィンにある幸せな空間に包まれたいという思いが、帰って来た途端に沸々と湧いてきてしまっている。少し困ったなと思いながらも、この年になって「帰りたい」と思える場所がまたひとつ出来たことは、実は案外嬉しかったりもする。
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