2018年「民族のワールドカップ」に挑む在日コリアンによる代表チームの姿

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ハリルホジッチ電撃解任に端を発し、すっかり日本サッカー協会(JFA)が多くのサッカーファンにとって「悪の枢軸」となってしまった感があるが、それでもあとひと月もしないうちにW杯ロシア大会は開幕する。

ハリル解任の理由、後任西野朗監督の選手選考、田嶋幸三会長による様々な発言…

「日本代表」に対してその存在に大きな価値を見いだし、チームの躍動する姿にこそ日本サッカーの未来があると信じ、そこに自らのアイデンテティを求めていたような人達にとって、このW杯直前という重要な時期に起きている数々の出来事が、心の中に失望感だけを上塗りされているような気持ちへとさせてしまっているのかも知れない。

私自身は前回のW杯ブラジル大会で「優勝を目指していた」日本代表が、ほとんど何のインパクトも残すことなく大会を去った時から、彼らに多くの期待をすることに意味を感じなくなってしまった。

もちろん大会がはじまれば、日本代表の試合は最優先でテレビ観戦するだろうし、その時だけは代表チームに夢中になってしまうに違いない。

ただ、もし仮にブラジル大会で突き付けられた結果と同じような末路が、ロシアでの戦いの後に待っていたとしても、それが日本サッカーの興廃に直結するようであってはならないと思うし、もしそうした理屈を多くの日本人が信じているようであれば、そちらの方にこそ危機感を覚えてしまう。

ともあれ、良きにつけ悪しきにつけ、日本社会においてサッカーのW杯はすっかり世間話のタネとなるまでに注目されるようになった。

グローバル社会の広がりとともに「国家」というコミュニティの存在意義が徐々に薄らいでいく傾向が見られる中で、4年に1度だけ自らの存在を確かなものとして感じられる「国別対抗戦」が祝祭の場として失い難いものとなっているのかも知れない。

 

民族のワールドカップが開催される

東京都1部 対三菱商事戦に挑むFC KOREAスターティングメンバー

 

こうして「国家」という存在の絶対性が揺らいできていることも「民族のワールドカップ」と言われるConIFAワールドフットボール・カップが誕生するに至った要因であるだろう。

国際サッカー連盟(FIFA)に加盟していない国や地域、少数民族による最大の「祭り」であるこの大会は、2014年にラップランドのサーミ(スカンディナヴィア半島北部からコラ半島に至る地域)で第1回大会が開催され、2016年にアブハジア(ジョージアの一部)で開催された第2回大会には「ユナイテッド・コリアンズ・インジャパン」として在日コリアンチームが出場した(厳密に言えばこの大会に出場したのは当時関東リーグに所属していたFC KOREAであり、日本人選手も含まれていた)

2年に1度開催されてきたこの大会が、W杯ロシア大会直前の時期にロンドンで開催される。(5月31日開幕、6月9日決勝)

第3回ConIFAワールドフットボール・カップ出場16チーム

グループ1
バラワ(ソマリア南部にある港町から英国にわたった移民がつくったチーム。大会の主催者)
エラン・バニン(英国王室領土マン島のチーム)
タミル・イーラム(スリランカ内戦によって国を追われたタミル人のチーム)
カスカディア(北米西岸、カナダとの国境近くの森林地帯のチーム)

グループ2
アブハジア共和国(ロシア、ソチと隣接した未承認国家。前回大会の優勝チーム)
北キプロス・トルコ共和国(キプロス島北部の未承認国家代表)
フェルヴィディク(ハンガリー北部地域のチーム)
チベット(言うまでもなくチベットの代表だが、多くの選手は欧州に移民している)

グループ3
パダーニア(イタリア北部地域代表。昨年行われた欧州選手権覇者)
セーケイランド(ルーマニアとハンガリーの国境地帯に暮らす少数民族のチーム)
キリバス共和国(太平洋中部に浮かぶ環礁と島々からなる国。地球温暖化で沈んで消滅の危機にある)
マタベレランド(アフリカ、ジンバブエの西部地域を代表するチーム)

グループ4
パンジャブ(パキスタンとインド北部にまたがるパンジャブ地方の代表だが、選手は全員が英国への移民で構成される。前回大会準優勝の強豪)
ユナイテッド・コリアンズ・イン・ジャパン(在日コリアンを代表するチーム)
西アルメニア(トルコ北部のアルメニア人たちを代表するチーム。コーカサス地方の強豪)
カビリア(アルジェリア北部に暮らすベルベル族の代表。カビル語を話し、キリスト教を信仰する)

 

グラマラスライフ 実川元子オフィシャルサイトより引用

 

2回目の出場となる在日コリアンチーム

安英学さんが選手兼監督で参加する  https://www.facebook.com/UKJ2018/

 

前回大会にも出場した「ユナイテッド・コリアンズ・インジャパン」は、十分な準備期間を以て、初めてALL在日コリアンによる選抜チームとして出場する。

監督は元Jリーガーで北朝鮮代表歴もある、あの安英学さんが務め(選手兼任)在日コリアンによるサッカーコミュニティの力をフル活用し、「海外組」も含め18人の選手がロンドンでの戦いに集められることになった。

前回大会に出場したFC KOREAからもチームの中心選手が5人選出され、サッカーの母国イングランドで「在日コリアン代表」としてプレーすることが現在の大きなモチベーションとなっているようだ。

最大のモチベーション

FC KOREA 主将のシン・ヨンギ選手 チームにとって欠かせないCB

 

FC KOREA主将シン・ヨンギ選手は、前回アブハジアで行われたこの大会にも出場している。それでも安英学さんのチームでプレーすることに大きな嬉しさを感じていると話した。

「英学さんとは朝高のグランドで何度も一緒にボールを蹴ったことがあります。あの人は凄い、特別な存在です。今回一緒にロンドンに行く選手達の中には”有名”な先輩も多い。少し緊張はしますけど、楽しんできたいです。」

今季FC KOREAに加入したムン・スヒョン選手は昨季の朝鮮大学サッカー部主将だ。社会人となった年にこうした大きな国際大会に出場出来ることが嬉しくて仕方ないようだ。

「ConIFAワールドフットボール・カップに出場することが、今の僕にとって最大のモチベーションになっています。そして出るからには優勝を目指します。」

 

FC KOREA ムン・スヒョン選手 小柄だがテクニックに秀でた「魅せる」選手。私は彼を勝手に牛若丸と名付けている

英国と北朝鮮といえば、1966年のW杯イングランド大会で北朝鮮チームがベスト8という快挙を果たしたことが思い浮かぶ。

彼らにそのことを投げかけると

「あ、そういえばそうですね。あの伝説のチームですよね。そうか、そうでしたね」

彼らは20代前半。自分たちが産まれるはるか前に「祖国」が起こした奇蹟については、案外ピンと来ていないのだろう。

それでもFC KOREAリ・チョンギョン監督にとって「奇蹟のチーム」は幼き日の憧れであった。

「あの大会が始まった当初はイングランドの人たちも北朝鮮チームに(冷戦構造の中で)それほどいい印象は持っていなかった。それでも大会が進んでいくうちに行く先々で大歓迎されるようになったと聞いている。」

リ監督は、ミドルスブラを訪れて当時の北朝鮮チームの快挙を記した記念碑を見てきたと話してくれた。

「スヒョンは優勝が目標と言っているけど、決して叶わない目標だとは思ってませんよ。出場してくるチームで私たちのように日常的にトレーニング出来ていないチームも沢山あるんです。」

在日コリアンが「代表」を愛する感情

 

かつて在日コリアンの誇りともなっていた「チュックダン(在日朝鮮蹴球団)」

自らの存在意義を噛みしめる対象としてのサッカーチームが、時の経過とともに世界へと飛び出し、民族のワールドカップに出場する「代表チーム」へと深化していく。

そこで躍動する若者たちの姿を見ることだけを楽しみに多くの在日コリアンが多大な支援をしているであろうことも想像できる。

「そんなプレーしてたらロンドンには行かせないぞ!!」

この日行われた東京都社会人リーグ1部で、三菱商事を相手に悔しさしか残らない惜敗を喫したFC KOREAに対してスタンドから声がかかる。

彼らは日本サッカー界においては小さな存在であるのかも知れないが、在日コリアンにとっては依然として眩い存在でもあるのだ。

私は彼らを羨ましくも思った。

これほどまでに純粋に自分たちの「代表」を愛せる感情が、いつから私たちは日本代表に対して抱けなくなってしまったのか。

様々な問題や不条理な出来事が起こるたびに「日本代表」という存在を真正面から見ることが出来なくなってしまっている実情。

しかしそんなものは自分自身の思いひとつでいくらでも変えていけるはずなのだ。

「ユナイテッド・コリアンズ・インジャパン」がロンドンでどんな戦いを見せたとしても、そこには喜びの感情しか生まれ出ないような気がする。

何故なら彼らは「成果を挙げる」ことで存在意義を持つのではなく、既にその存在自体が奇蹟でもあるのだから。

 

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