栃木県南部に位置する小山市は、その東南を広く茨城県と隣接し、前橋や宇都宮そして水戸といった北関東の主要都市同士を結ぶ要所でもある。
栃木市をホームタウンとする栃木ウーヴァFCにとって、小山は足利と並んでそのホームゲーム数試合を長く開催してきた街でもあり、メインで使用してきた栃木市陸上競技場が改修で閉鎖されている今シーズンにおいてはその必要性も増し、この日も関東サッカーリーグ、対ジョイフル本田つくばFC戦がこの小山で行われた。
小山運動公園でリーグ戦を行うということ
小山運動公園は街の中心から離れた場所にあり、その周囲は農地に囲まれている。
それだけに、仮に駅から路線バスを使ったとしても、最終目的地に到着する為にはバスを降車してからも、20分程度歩く必要が生じる。小山駅から水戸線に乗り換えて一つ目の小田林駅を使っても、駅からは30分程度の徒歩は覚悟しなくてはならない。
これらの条件を以て徒歩での来場が困難だとは言い切れないが、いずれにしてもそこに多くの人々を集めるにあたって好条件が揃っているとは言い難い。
BCリーグ 栃木ゴールデンブレーブス

栃木ゴールデンブレーブスの試合開催情報が記載されたポスター
運動公園には関東リーグが行われた陸上競技場(昨季まではJFLが行われていた訳だが)の他にテニスコートが8面、野球グラウンドが2面、とまさに運動公園の名に相応しい設備が揃っているが、この公園のメインコンテンツはそれらではなく、その佇まいは古いながらも荘厳な雰囲気すら感じさせる内野スタンド付きの野球場であろう。
BCリーグに所属する栃木ゴールデンブレーブスは「栃木県民球団」として、2017年から活動をスタートさせた新しい野球チーム。巨人軍を自由契約になった村田修一が加入したことで話題にもなったこの球団が、そのホームゲームの多くをここ小山運動公園野球場で開催している。
私が運動公園に向かうまでの道すがらに沢山の「のぼり」を目にしていたが、これらは全てこのBCリーグを周知させるものであったのだ。
栃木ゴールデンブレーブスが小山で行った今シーズンの開幕戦には4,000人の観客を集めた。
この日行われた栃木ウーヴァ対つくばの観客数が400人台であったことを考えると、その差は歴然だが、見方を変えれば、小山が開催場所であっても4,000人程度の観客を集めることが可能だと考えることも出来る。
栃木ウーヴァ大栗社長が作り込む世界

「ウーヴァ祭り」の様子 キックオフの1時間前くらいからは「祭り」感も出てきた。
栃木ウーヴァにとって小山は「本宅」ではない。
しかしながら、その人口だけを取ってみれば小山市の人口が彼らの「本宅」である栃木市より少しだけ多いというのも事実だ。
今後栃木ウーヴァが関東リーグからJFLへと返り咲き、その先にJリーグ参入をイメージしていった時に、スタジアムには栃木ゴールデンブレーブスが小山に集めている水準を超える観客を集めなくてはいけなくなっていく。
その未来図を見せるべく、栃木ウーヴァの大栗崇司社長が、関東リーグのホームゲームを「体感型プレゼンテーション」の場として作り込んでいるように見えた。

ピッチを囲む沢山のスポンサーバナー
陸上競技場の外側には開場の1時間前から「ウーヴァ祭り」のスペースとして開放され、飲食の出来る何台かのテーブル席を囲うようにしてスタジアムグルメの店舗が6つも出店している。他にもチームグッズ売り場やオーセンティックユニフォームの販売コーナーなどには選手やクラブスタッフが立ち、奥に設置された小さなステージの上ではチアリーディングやフラダンスのデモンストレーションも行われていた。
スタジアムの中に入ると圧巻なのはそのスポンサーバナーの数である。
ゴール裏、タッチライン沿い、ベンチ裏、所狭しと並べられている大量のバナーを見た時に、それが「空間演出」の意味も込められて設置されている側面もあるのだろうと私は感じた。

大型ビジョンカーも「サッカースタジアム」を作り上げる
「サッカースタジアムを作り込む」この体感型プレゼンテーションの目玉は、大型ビジョンを装備した「ビジョンカー」の登場である。
スタジアムMCによる試合前の軽快なトークや、スターティングメンバーの発表、こうした「サッカースタジアムを作り込む」上で当たり前ともされているような要素をこの「ビジョンカー」が担っている部分は非常に大きいと言えるだろう。
「体感プレゼンテーション」を誰のために「用意」しているのか

スタジアムに到着した選手達を迎える栃木ウーヴァ大栗崇司社長 インカムをつけ終始動き回っておられた
栃木ウーヴァのホームゲームがサッカースタジアムの「体感型プレゼンテーション」である限り、そこにかかる経費の全ては「広告宣伝費」の類と思った方がいい。それくらいに「アンバランス」なコストパフォーマンスをそこに集まる人たちに対してクラブは提供している。
大栗社長は私にこんな話をされた。
「手作り感満載でやってるんですけど、なかなかお客さんを集めるのは難しいんですよね。」
確かに現状はそうなのだろう。「サッカースタジアム」を「体感型プレゼンテーション」の場へ変換させている要素をひとつひとつよく見てみると、それらには全て「0を1にする苦労」が感じられる。
スタジアムグルメの中には、栃木SCのホーム「グリスタ」に毎回出店しているというブラジル料理の店もあった。400人程度しか集まらない栃木ウーヴァの試合に出店依頼するにあたっては、少なからず障壁もあっただろう。
ピッチ周りのボールボーイに声を掛けると、彼らは地元小山市の中学サッカー部のメンバーだと言い、私が声を掛けた少年はこの日初めて栃木ウーヴァの試合を見ると話した。
この試合の前日に行われた関東リーグの会場で、有料試合にも拘わらず1,000人を超える観客を集めたブリオベッカ浦安とは、その地理的背景が違い過ぎていて単純な比較は出来ないものの、一定の期間をJFLで戦っていたクラブであることを考慮すれば、公式戦であっても数百人程度の集客力に留まっている現状では、大栗社長が描く未来図との間に大きな乖離(かいり)があるのだろう。
現実的な戦いを見せる元Jリーガーたち

手堅く「現実的」な戦いを見せた栃木ウーヴァの選手たち
そして私はこうした大栗社長の取り組みが、必ずしも小山や栃木の人々にだけ向けられたものではないのではとも感じている。
そう感じたのは、栃木ウーヴァがこの日の試合で、非常に「現実的」な戦いぶりを見せたことにも起因する。
「デカモリシ」こと森島康仁選手を筆頭に、多くの元Jリーガーを補強した今シーズンの栃木ウーヴァは、地獄の関東サッカーリーグの中でも圧倒的な存在感を放っている。
そんな彼らが勝点3に徹する戦いを見せるのだ。
派手なドリブルや、華麗なコンビネーション、全ての面で対戦相手を凌駕するような試合運び、地域リーグにありながら「プロサッカー」の匂いを感じさせる彼らに対してのこうした期待はむげも無く裏切られる。
デカモリシは大きな身体を揺らしながらハードワークし、他の実績ある選手たちもほとんどリスキーなプレーはしない。
特に印象的だったのは、栃木ウーヴァの選手たちがある意味で「単調」な試合運びをしていながらも、つくばFCにチャンスらしいチャンスを一度も与えないまま、試合を終えたことだ。
「必勝」を義務づけられた元Jリーガーのために用意された「サッカースタジアム」

この日2ゴールを挙げた清水貴文選手はジュビロ磐田から加入してきた
栃木ウーヴァにとって、彼らの居場所が地域リーグではないことはその選手補強を見ただけでも明らかだ。しかし、だからと言って彼らが必ず1年でJFLに復帰出来る確証は得ている訳ではない。
その過酷なレギュレーション(関東リーグで優勝したとしてもJFL昇格はその先にある地域CLで決める必要がある)を思えば、JFL昇格が難しいミッションであると考えた方が現実的と言えるかも知れない。
だからこそ、選手達には関東リーグを「居場所」とするような戦い方をクラブは求めないし、そこで新たなスターを生み出そうとも思っていない。これは森島康仁選手に対してであってもそうなのだ。ある意味で自らの能力の高さを「誇示」することを封じられながら「必勝」を義務づけられるようにも見える。
実績ある選手たちにとって、こうした戦いは決して楽ではないだろう。
大栗社長が作り上げている「サッカースタジアム」は、そんな彼らのモチベーションを高めるためにも必要不可欠なものであるのかも知れない。私は「体感型プレゼンテーション」の場にいてそんな風にも感じた。
この日つくばFCに3-0で完勝した栃木ウーヴァ。
彼らにしてみればリーグ戦の序盤を5連勝でスタートすることになど、全く大きな意味を感じていないだろう。
11月に行われる地域CLへ出場し、そこでJFL昇格という成果を得ることは「目標」ですらもなく、必達必至の「目的」と考えているはずだ。
一見「ここにいることを楽しもうとしている」ようにも見える栃木ウーヴァがホームゲームで提供している世界が、ただひとつの「目的」を果たすために作り込まれた世界でもある。
これが私が小山へ行って最も強く感じた思いだ。
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