ヒロさん(VONDS市原FC サポーターグループ「VERTEX」リーダー )

たった1人でも応援したい気持ち
「結局、カッコつけたいのであれば1人でアウェイになんてのり込めないですよ。たった1人であっても応援したい気持ちが強いからのり込めてしまう」
ヒロさんがVONDS市原FCのサポーターグループ「VERTEX(ウェルテクス)」で本格的なサポート活動をスタートさせたのは2015年シーズン。
それまでも一市民としてVONDS市原の試合をスタジアムに見に来ていた。
「試合や練習を見に行ってVONDSの選手ともつながりが出来ていく中で、約半数が元Jリーガーといった肩書を持つ選手が所属するこのチームにもっと華やかなサポートをしてあげたかったんです」

選手バスを迎えるVONDS市原サポーター この日は同時間帯にフクアリでジェフが試合をしていた為「兼任サポ」がおらず若干少な目
1967年に創設された古河電工千葉事業所サッカー部を前身とするこのクラブが、VONDS市原FCというクラブ名でJリーグ参入という目標を掲げたのは2011年。以来チームは年を追うごとにカテゴリーを上げていき、2014年からは関東サッカーリーグ1部を戦っている。
VONDS市原FCとしてスタートした2011年当時、市原の市民にさえほとんど存在を知られていないようなサッカーチームの挑戦を応援していたのはクラブのスポンサー関係者で組織された応援団だった。そうした環境の中でチームは力をつけていき、同時にその選手の顔触れの中には「プロ選手」も登場しはじめる。
こうしたチームの成長の過程で、VONDS市原の試合とあれば、それがアウェイであっても馳せ参じる「サポーター」が登場したのは必然であったのかも知れない。
仲間が増えていく喜び

昨季関東リーグの得点王となった池田晃太選手(今季つくばFCより加入)と川崎Fでのプレー経験もあるレナチーニョ選手による2トップはリーグ屈指。
ヒロさんはこう語る。
「初めはサポーターと言っても俺一人でした。そこにクラブスポンサー関係者の中から一緒にやってくれる人が出てきて、それで『VERTEX(ウェルテクス)』を立ち上げたんです。それでもユースの子たちを応援に引き込んだりもしたし、もちろん1人でアウェイにのり込んだことだってありますよ。」
こうしてVONDS市原FCの「サポーター」として孤独な活動を始めたヒロさん。しかしそこはサッカースタジアムであり、彼を見つめている人たちもいた。
「今一緒にVERTEXでやっている仲間は、みんなもともと俺と一緒でVONDSの試合をスタンドの何処かで見ていた人たちなんですよ。それで俺のことも遠目で見ていた(笑)。中にはジェフのサポーターもいたし、GANBINO(ガンバ大阪の代表的なサポーターグループ)の人も手伝ってくれたりもしたんですよ。」
本格的にVONDS市原FCのサポーター活動を始めてから今季が3シーズン目となるヒロさんに、これまでのサポーター生活で最も嬉しかったことを聞いてみた。
「それは何と言っても仲間が増えたことです。俺はチームが勝ってくれればとか、昇格さえすればいいなんて全く思っていなくて、VONDS市原というクラブを通してそれまで存在しなかった人と人との繋がりが出来ていくのが凄く嬉しいし楽しいですね。まぁジジィとババァばっかりですけど(笑)」
祖母井さんが来て変わったこと

「なるべくカラフルにしてスタジアムを華やかにしたい」そんな思いが込められた横断幕
仲間が増えたことが何よりも嬉しいと話すヒロさんにとって、今季になってもう1つ嬉しいことがあったようだ。
「祖母井さん(祖母井秀隆クラブ代表)がクラブの代表になったことで、サポーターの意見をクラブに対して伝える機会が増えてきたんです。必ずしも俺らの意見に全部応えてくれるわけじゃないけど、風通しの良さは感じますね。」
VONDS市原の選手達と繋がりが出来「彼らを応援してあげたい」という一心でチームのサポーターにまでなってしまったヒロさん。これまでは「俺たちは選手を応援してるんだ」という思いを持つこともあったそうだが、クラブが日本サッカー界きっての経営のプロである祖母井秀隆氏を代表に迎え入れたことで、その思いはこれからのクラブ、これからのゼットエーオリプリスタジアムへと膨らんでいるようだ。
「VONDSのホームゲームが市原の人たちにとっての社交の場になって欲しいですね。その為にはスタグルやイベントも必要だし、クラブがおもてなしの心を持つことも重要でしょうね。」
ヒロさんはこう続ける。
「俺らサポーターに出来ることだってあると思うんですよ。まず第一に対戦相手のチームやサポーターに対してのリスペクトの姿勢。やっぱりサポーターが和やかに楽しそうにしていた方がいいでしょ? それから、俺たちの横断幕って必ずしもクラブカラーのグリーンばかりじゃないんですよ。これもなるべくカラフルにしてスタジアムを華やかにしたいっていう考えがあって意識的にそうしてるんです。」
俺たちは緑色のヘルメットを被る

私はVERTEXメンバーを指して「ジジィとババァばっかり」と話してくれたヒロさんに、年々高齢化が進んでいると言われるサッカースタジアムに若いファン・サポーターを増やすためにはどうすればいいと思っているかについても尋ねてみた。
「Jリーグであればスター選手もいるし、若い人がそういう選手に関心を持ってスタジアムに来てくれるっていうのでいいと思うんですよ。ただ、関東リーグだとVONDSもそうだけど、世間に名の知れたスター選手なんていない。だからこそ何か若い人が興味を持ってくれるようなきっかけを作らないといけない。俺たちはこうして緑色のヘルメット被ってて、、、まあこれも栃木サポの真似なんだけど、それでも何かやらなきゃという思いでやり出した。若い人が『あの緑のヘルメット俺も被りてぇ!』って思うかどうかは分んないけど(笑)」
ヒロさんは見た目には身体も大きくちょっとコワモテで、それだけに近寄りがたいムードを感じなくもないが、実際に話してみると非常に寛容で、常にオープンな姿勢で接してくれる。
この日も大事なリーグ戦の始まる前に時間を取ってもらい、私の問いかけに対して真剣に応えてくれた。その最中もスタジアムへVERTEXのメンバーが到着するたびに、私のことをきちんと紹介して下さったのだが、その誰もがヒロさんと同じようにオープンマインドで、こんなムードが存在するVONDS市原のサポーターエリアには、これからもきっと仲間が増えていくのだろうと素直に思えた。
サッカークラブが社会に対して出来ること

この日は交代出場ながら決勝点につながる好プレーを見せた加賀美翔選手。背番号は7
最後に、ヒロさんが今シーズンのVONDS市原FCで最も注目している選手を聞いた。
「今季加入してきた加賀美翔ですね。彼と話したら凄く野心家なのが分かったけど、そんな一方でファンにはとても優しい。その上イケメンなんだよね。」
清水エスパルスでプロ生活をスタートさせた加賀美翔選手は、今季北信越リーグのジャパンサッカーカレッジからVONDS市原に加入した24歳のストライカーだ。
この日行われた対東京23FC戦では先発出場はならなかったが、膠着状態の続く後半途中に投入され、見事なドリブルで均衡を破るゴールを演出してみせた。
クラブはJリーグ参入を目標に掲げ、選手個々で考えれば現在のカテゴリーを戦うことに決して満足出来ていない者もいるだろう。
しかしVONDS市原FCのサポーターグループ「VERTEX」のリーダー、ヒロさんは選手、チーム、そしてVONDSというクラブを応援する日々をそこが関東サッカーリーグであろうと、すでに楽しんでもいる。
冒頭の「応援したい気持ちが強いから1人でものり込めてしまう」という言葉が示しているように、応援するチームがカテゴリーを上げていくのは単なる過程に過ぎず、彼にとってはそうした強い気持ちを共有出来る仲間が増えていくこと。それこそが最も重要であり、最も楽しいことなのだろう。VONDS市原の「VONDS」が絆を意味するBONDの頭文字を「勝利のV」に変えた造語であることに妙な納得をしてしまう。
サッカークラブが社会に対して出来ること。それは必ずしも世間一般から広く知られる存在になることではなかろう。そのクラブが存在する社会にそれを中心としたコミュニティーをどれだけ深く作っていくことが出来るか。どれだけ多くの人たちにとって心の支えになれるのか。そうしたことではないか。
今回のインタビューでその思いが一層強いものになっていった。
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