小学6年生の時、私のいたクラスでサッカーが大流行しはじめた。
ちょうどスペインでW杯が開催された年で、前の年には週刊少年ジャンプでキャプテン翼の連載も始まっていた。こうした時代背景もその助けになったことは間違いないのだが、どういう訳か3つのクラスの中でサッカーに夢中になっていたのは私がいたクラスだけで、当時20人弱の男子クラスメートのうちの約半数が、私が入っていた少年サッカークラブに次々と入部するまでになっていった。
サッカー少年たちは「腕試し」の相手に飢えていた

当時の担任の教師は若い男の先生だったが、私たちがあまりにもサッカーに夢中になっていくので、それまでほとんどサッカーの知識が無かったにもかかわらず、自身も4級審判の資格を取り、体育の授業などでかなり積極的にサッカーを取り入れてくれた。
こうした環境の中、始業前、昼休み、放課後と毎日のように学校の校庭や近所の公園でボールを蹴っていた私たちが「腕試し」をしたくなるのは必然だったのだろう。
最初の対戦相手は同学年の他のクラス、前述の担任の先生に「マッチメーク」してもらい、体育の合同授業などの時間を使ってクラス対抗ゲームが行われるようになっていく。
当時他のクラスの子どもたちが夢中になっているスポーツと言えば野球かドッジボールで、ボールを蹴ったこともないような相手に対して、私たちがどんな試合をしていたのかははっきり覚えていないが、かすかに覚えているのは「なんとも申し訳ない」という感情があったことだ。
恐らく自分たち「だけ」が夢中になっているサッカーに無理矢理付き合わせて、たまには完膚なきまでに倒してしまったこともあったのだろう。相手の気持ちを気遣う、察する、そんな少し大人な感情がこの頃の私に芽生えていたのだろう。次第に他クラスを相手にした「腕試し」はしなくなっていった。
とはいうものの、私たちは自分たちの戦う相手に飢えていた。
自分たちの実力をいかんなく発揮し「叩きのめす」ことが出来る相手。
望んでいると格好の相手が見つかるもので、意外にもそのきっかけはクラスの「おませ」な女子たちが作った。
「ダービー」恋敵?の鼻をあかしてやろうという企み

当時、私のクラスの女子たちは隣の小学校の男子に夢中になっていた。口を開けば「〇〇くん命(時代を感じる)」「〇〇くんカッコいい」「〇〇くん大好き!」
私たち男子としては、こうした事態は男のプライドが許さない非常に忌々しき状況でもあった。いくら校庭でオーバーヘッドの練習をして見せても、他のクラスの男子を叩きのめしても、女子の心は隣の学校のあいつらに向いている。あぁ無情!
そして私たちは隣の学校の男子に夢中になっている女子に「マッチメーク」させ、サッカーで相手(恋敵?)の鼻をあかしてやろうと企んだ。
相手方の校庭開放に乗じて行われた初めての「ダービーマッチ」
「アウェイ」に乗り込んだ私たちは、この試合に勝利しクラスの女子の心を取り戻す。ただそれだけを意識し、意気揚々と戦いに挑んだが、交通事故のような逆転負けを喰らう。
クラスの女子の心を取り戻すことに失敗した私たちは、男として人生初の「敗北感」を味わった。しかし「負け犬のままではいられない!」と思った私たちはこの敗北感を払拭すべくリベンジマッチの画策をする。
リベンジ「ダービー」を画策

リベンジマッチは敗北を喫した「アウェイ戦」を超えるインパクトをもたせないとならない。
私たちは担任の教師にこんな相談をした。
「より広い中学校のグランドを試合会場にしたい」
時代は校内暴力全盛期。
例に漏れず、恐ろしい噂しか聞こえてこないその中学校は、小学6年生の私たちにとっては「刑務所」や「牢獄」に限りなく近いイメージで見つめてきた場所。しかしながらそのグランドには大人用のサッカーゴールが設置され、サッカーをする私たちにとって憧れの場所でもあった。
また、私たちの小学校と隣の小学校に通う子供たちが進学するこの公立中学校のグランドは、今回の「ダービー」に最適な会場でもあった。
4級審判の資格を持つ担任は、この「ダービー」開催案に喜んでくれた気がする。すぐに私と一緒に中学校の職員室までグランド使用のお願いをしに行ってくれた。
その際の殺し文句は
「数か月後に同じ中学校に通う子どもたち同士がサッカーで交流したいと言っています。どうかその場所をご提供ください」
中学校側に断る理由はなく、私たちが画策した「ダービー」は正式に行われることになった。
しかし実はもうこの頃になると、私たちは隣の学校の男子たちとも随分仲良くなっていた。
一度試合をしていたことでリベンジマッチにも簡単に応じてくれ、近所の児童館では一緒にローラースケートで遊んだりもしていた。
ただそれであっても「ダービー」は特別だ。
何と言ってもクラスの女子の心を取り戻さなくてはならない。
かくして「ダービー」に向け特別練習まで行った私たちは、中学校の広い憧れのグランドで見事にリベンジを果たす。
この勝利で女子の心も多少は取り戻せたかも知れない。しかし私たちはそれ以上に「新しいサッカーの友人」を得ることに成功した。
私たちが「ダービー」で得たもの

クラスの女子の噂話で聞いていた段階では「全く相容れない奴ら」と感じていた相手が、その先長きに渡って付き合っていくことになる大切な友人へと変わっていった。
私たちの「ダービー」は、小学6年生だった私たちの世界を突然にして広げた。
吹田で行われた今季最初の大阪ダービーは素晴らしい試合だった。
これまでなかなかいい試合が出来ていなかったガンバの選手たちが、これほどまでに気持ちの入った戦いを見せてくれた理由は、この試合が「ダービーマッチ」だったからだと言っても過言ではないだろう。
しかしながら、Twitter上に見られる両軍サポーターのいがみ合い、罵り合いが、どれだけこの試合の価値を落としてしまっているか。
昨日は大阪ダービーを生観戦。熱い試合に興奮しました。ただ、青い服を着た男性から「オラ~セレッソかかってこいや!」としつこく絡まれたのは本当に残念でした。子供がやられたら怖いだろうし子供連れの人は2度と連れて行かないとなるのでは。誰でも安心して観戦できるJリーグであって欲しいですね。
— 林弘典/カンテレアナウンサー (@hayashi8ch) April 22, 2018
もちろん、多くのファン・サポーターは互いを憎しみ合うことが、どれだけ虚しいことなのかを分かっているはずだ。
憎しみは憎しみを怒りは怒りを増幅させる。そんな負の感情が向かう先はどんな場所なのか、そこは少なくとも日本サッカーの向かうべき場所ではないし、そもそも日本のサッカースタジアムにそんな感情が生まれているのだとすれば、それは欧州や南米の猿まねをしているうちに行き過ぎてしまったとしか考えられない。
Jリーグサポーターはもっと「ダービー」を楽しもう。
言って見れば「ダービー」は自分とは違う人たちに出会うチャンスなのだ。(と言っても応援しているチームが違うということにどれだけの違いがあるというのか)
中学校のグランドで行ったあの「ダービー」を戦ったメンバーで昔話をすれば、両軍に分かれての「ダービーごっこ」が始まるだろう。そしてそんなやり取りはどう考えても最高の酒の肴になるに違いないのだ。
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2017年9月から、私が開設しているブログがあります。
ブログタイトルは「ラーテル46.net」
こちらのブログでは主に、私が最近妙に熱心に応援し始めた「柏レイソル」についての内容を多く記事にしています。