天皇杯などのカップ戦で地域リーグに所属するチームや大学サッカー部が「格上」Jリーグ勢を破ると「ジャイアントキリング」という見出しとともに、普段サッカーについてなどほとんど取り上げることのないようなメディアでさえも「大事件」のような扱いをする。
当のJFAが天皇杯のポスターに漫画「ジャイアントキリング」のキャラクターを採用し、この大会の醍醐味としているくらいだから、前回大会の筑波大学(茨城県代表)のようにJリーグ勢を二度にも渡って倒すようなチームが出てくることは歓迎すべきこととされているのだろうが、「下剋上」的な勝利に対して「ジャイアントキリング」があまりに安売りされてしてしまうと、本来そこにある面白みや奥深さがどんどん薄まっていき、若干食傷気味な感情を抱いてしまうのも正直なところだ。
大詰めを迎える天皇杯都道府県予選
J3藤枝、天皇杯県予選で敗退…JFLのHonda FCに1-3で敗戦 https://t.co/RdDwPuWvSX #gekisaka
— ゲキサカ (@gekisaka) April 22, 2018
各都道府県で行われている天皇杯代表チーム決定トーナメントも大詰めの時期となっている。
静岡県では、JFLのHonda FCがJ3の藤枝MYFCを準決勝で破り、同じくJ3のアスルクラロ沼津と代表権を争うことになった。
この結果を以て「格下が格上に勝利した」「番狂わせだ!」というようなニュアンスでも伝えられた。確かにそう言いたくなるのは分からなくもない。JFLはJ3に昇格する上で必ず通らなくてはならない登竜門としての位置づけもされている。ただ、そんな登竜門で「Jの門番」とも称されているHonda FCの実力を持ってさえすればJ3勢はもちろん、J2やJ1のチームであってもそう簡単に勝利することは出来ないだろう。
Honda FCをJの物差しで測るのはナンセンス
【スルガカップ(天皇杯)】
Honda FC 3-1 藤枝MYFC
得点者:遠野、遠野、児玉2得点を挙げた遠野より、皆様にメッセージです!
決勝は5月13日!応援宜しくお願い致します!#HondaFC #JFL #Honda #スルガカップ #天皇杯 #藤枝MYFC #アスルクラロ沼津 #藤枝市役所 pic.twitter.com/omQlbWGTnb— Honda FC【公式】 (@Honda_FC) April 22, 2018
そしてこれが「格下が格上に勝利した!」に違和感を覚える最大の理由でもあるのだが、そもそもHonda FCはJFLに所属しながらも、J1を頂点とするピラミッド構造へ入ることを拒んでいる存在であって、彼らに参戦資格がある最高水準のリーグに所属しているだけという実態を挙げることが出来よう。(その最高水準であるJFLで圧倒的な強さを長年に渡って維持し続けている)だから、厳密に言えばHonda FCにとって藤枝MYFCやアスルクラロ沼津は「格上」ではない。Honda FCからすれば「昔ちょっと相手してやってた時期もあったけど、そんな奴らが今じゃいっぱしにプロだって言ってやがる」といった所だろう。
Honda FCをJの物差しで測るのはナンセンスなことなのだ。
厳密に言えば「格下」ではない大学勢

2018関東大学リーグ 流通経済大学対専修大学
こうした「厳密に言うと格下ではない」チームの中でも最も安定した力を発揮し続けているのは大学サッカー勢だろう。
特に全国から選りすぐりのユース世代を集めている関東や関西の大学リーグに所属する大学チームの実力の高さは際立っている。
流通経済大学に至っては、JFLにも(流通経済大ドラゴンズ)関東リーグにも(流通経済大FC)異なるチームを参戦させており、そこでプレーする選手にとっても関東大学リーグに参戦している流通経済大サッカー部のメンバーになるのが大きな目標のひとつとなっているくらいだ。
それだけに流通経済大学や筑波大学が存在する茨城県では、天皇杯に県代表として出場するために大学勢の高い壁を越えなくてはならない。つまり茨城県は天皇杯出場難関地域でもあるのだ。
こうした傾向は大学が集中している東京都についても同じようなことが言える。
直近10年を遡っても、実にそのうちの5回を大学勢が優勝し、大学勢同士の決勝となったのは3度もある。
そしてこれこそが東京ならではとも言えるが、この10年の間に7つもの大学チームが決勝に進出している(国士舘、明治、学芸、専修、日体、早稲田、明治学院)ちなみにそれ以外でみて見ると僅かに4チーム(横川武蔵野※現 東京武蔵野シティ、東京ヴェルディユース、FC町田ゼルビア、東京23FC)のみ。
この実績だけを見ても、大学サッカーが「格下」どころか「天皇杯の門番」として東京に大きく存在していることを表している。
今シーズンの天皇杯東京都代表を巡る戦い

東京武蔵野シティFC対駒澤大学 この日何度もマッチアップした2人の勝負は星キョーワァン選手(駒澤大 白いシャツ)の圧勝だった。
今シーズンの天皇杯東京都予選を兼ねた東京都サッカートーナメントでも、その大学勢の強さを改めて痛感することとなった。
同日に行われた準決勝2試合のうち、第1試合では関東サッカーリーグ1部のTOKYO UNITED FCが東洋大学を1-0で破ったが、TOKYO UNITED FCにとってはまさに辛勝。感じとしては10回対戦して3回勝てるか勝てないかくらいの実力差があるように見えた。
第2試合ではJリーグ100年構想クラブとして認定され、今季のJFLでの成績次第ではJ3への昇格も狙える立場にあるJFLの東京武蔵野シティが駒澤大学にいいところなく0-2で完敗した。
5月中旬に行われるこの大会の決勝戦で、この両者のうちのどちらが勝利し天皇杯に東京都代表として出場することになるのか。
もちろん、勝負は終わってみないと分からないものだし、そもそもそんなことを予想するのが本懐ではないのだが、現時点で私の中にTOKYO UNITED FCがあの駒澤大学に勝利するイメージは湧きにくい。しかしそれも当然であろうと思う、何しろ彼ら(大学勢)は格下でも何でもないのだから。
真の「ジャイアントキリング」その醍醐味は「Jリーグピラミッド」を脅かす構図にあり!
JFLで長年「Jの門番」という役割を担ってきたHonda FCのような存在は稀だが、強力な大学勢も含め「厳密に言えばJ1を頂点とするピラミッドに属していない」彼らのような存在が、そんなピラミッドをバカバカしいとばかりに、Jリーグ勢を天皇杯で打ち破る姿はある意味で爽快だ。
「Jリーグクラブ」あるいは「Jを目指すチーム」を「Jを目指していないチーム」が倒す構図。
単に戦うカテゴリーの「上下」だけでなく、そのチームの背景を「Jリーグピラミッド」で透かして見た時に、そこに真の「番狂わせ」「ジャイアントキリング」の魅力があるように思う。
Jリーグピラミッドの絶対性を脅かすような存在が出てくることで、日本のサッカーカルチャーはより深いものとなって行くはずだ。
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