【地獄の関東リーグ】VONDS市原FC 歓喜の空間を作り出す為に選手たちが担う役割

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前夜からの暴風で、雨こそ降っていないもののサッカースタジアムを「構成」する要素は決して満足のいくものにならなかったのかも知れない。

かつてジェフユナイテッド市原のホームスタジアムとして使われた市原臨海競技場。

現在は地元市原の企業が命名権を取得し「ゼットエーオリプリスタジアム」という名前で呼ばれているこの場所が、関東サッカーリーグを戦うVONDS市原FCのホームスタジアムだ。

選手バスを迎えるVONDS市原サポーター

 

激しく吹き荒れる風の影響で、スタジアム外のスタグルはテントを張れず出店を断念、可動式ベンチも破損の恐れがあるため、控え選手や監督、チームスタッフはパイプ椅子で試合の行方を眺めることになった。コーチングエリアを示すマーカーコーンも吹き飛んでしまうので養生テープがその代わりだ。

両軍のサポーターが風に大きく煽られる弾幕を苦労しながらロープで固定し設置してくれたことでサッカースタジアムにあるべき華やかさは辛うじて保つことが出来たが、それでも大旗を構えているメンバーは激しくたなびくサポートのシンボルを全身の力を集中させて支えているように見える。

 

「地獄の関東」主演キャスト同士の戦い

この試合で東京23FC加入後、公式戦に初めて出場した「バウル」こと土屋征夫選手

 

VONDS市原FCは昨季の関東リーグで優勝し、JFL昇格をかけた死闘「地域CL」でも決勝ラウンドに進出した。ホーム「ゼットエーオリプリ」で開催されるこの大会でJFL昇格という夢がついえたクラブは、今季代表取締役として「オシムを呼んだ男」祖母井秀隆氏を迎え入れた。

かつてジェフ市原のGMを務め、フランス、リーグアンでのクラブGM経験もある日本サッカー界屈指の「クラブ運営のプロ」である祖母井代表が、早くからスタジアムの外で応援道具の準備をするサポーター全員と握手で挨拶を交わし、彼らが迎えようとしているチームバスの到着時刻を遠くから大声で知らせてくれる。

ちょっとした「違和感」すら覚えるような何とも不思議なムードの端々に、コミュサカならではの手作り感が溢れている、そんな世界がここにはある。

 

 

しかしながら、そんな「手作り感」がある一方で、今季の関東リーグを「地獄の関東」と言わしめている理由のひとつともなっている様に、VONDS市原が昨季の優勝に飽き足らず更なる実力ある選手の大型補強を敢行している。

昨年の関東リーグ得点王、池田晃太選手をライバルチームジョイフル本田つくばFCから獲得し、守備の要としてかつての東京23FCのスター、伊藤竜司選手をJ3藤枝MYFCから獲得した。シーズンが始まってもその補強の嵐は止むことを知らない。この試合が行われた前の週には元日本代表でジェフで長く活躍した山岸智選手の加入を発表、他にも柏レイソルU-18出身の若く才能ある選手を2人も獲得した。

そのメンバーだけを見れば、とても地域リーグのクラブとは思えないような陣容ではあるが、この日の対戦相手、東京23FCにも「バウル」こと土屋征夫選手が今季加入しており、いかにそこにある「地獄」が実の伴ったものであるか、力づくで説得されているような気分になってしまう。

 

勝負を決めたゼムノビッチの切り札

 

もちろん、両軍がそれだけの戦力を整えてJFL昇格という目的を果たすために不可欠なチャンスを掴もうとしているのだから、両者の戦いがつまらない試合になるはずがない。

私はこの日、クラブにカメラ撮影取材の申請をしていたので、ゴール裏の「特等席」からこの試合をずっと見つめていたのだが、時として撮影することを忘れて試合の行方に気持ちを奪われてしまっていたのが正直なところだった。並んで撮影しているカメラマンがいるにも関わらず「お~!!高い!」「速い!」「強い!」などと感嘆の声を上げていた。

勝負はVONDS市原ゼムノビッチ監督の采配に軍配があがる。

途中交代で出場した加賀美翔選手の鋭いドリブルからのチャンスメークに対して、これも途中交代で出場していた峯勇斗選手が貴重な決勝点を決めて見せた。残り時間10分弱、ゲームの流れを考えてもこのゴールがそのまま勝利に結びつく意味を持つものになるということは両軍の選手たちが全員理解していたはずだ。

VONDS市原の選手たちが喜びを大きく身体で表現する一方で、東京23FCの選手たちは失意でゴール前にそのまま倒れ込んでしまった。

 

ハイタッチで観客を見送る選手たち

試合終了後、ハイタッチをしてファンを見送るVONDS市原FCの選手たち

 

試合が終了すると選手達がサポーターエリアに挨拶をしにくる光景はどのスタジアムでも見られるシーンではあるが、VONDS市原の選手たちはその挨拶が済むと早々にスタジアムの外へユニフォーム姿のまま現れ、今度はメインスタンドで観戦していたファンひとりひとりをハイタッチで見送っている。

東京23FCという難しい相手に対しての快勝であったことも手伝ってそこには笑顔が溢れていた。

こうしたエピソードが伝えられる時に、その世界にあるファンと選手、あるいはファンとクラブとの間にある距離の近さが強調されることも多いが、私がそこで感じたのはそうした表層的なイメージではなかった。

この日スタジアムに集まった観客の数はおそらく数百人程度。VONDS市原の試合を見続けている方からすると、かなり観客数の少ない試合だったようだ。曰く荒天にも原因があるとのことであった。

それでもそこに集まった観客たちは応援するVONDS市原の勝利を心から喜んでいる。

これがJリーグのスタジアムであればそこには1万人もの「同志」がいて、その空間自体が歓喜のムードに包まれているはずだ。自分自身がハッピーな気持ちになっている状況を「共感」出来る仲間と一緒にそこに来ていなかったとしても、そこにいるだけである程度は「共感欲」が満たされるのだ。

しかしコミュサカの現場には必ずしもそうした環境があるとは言えない。

仲間と一緒にそこに来ていれば多少は「共感欲」が満たされるだろうが、なにしろ絶対的に人が少ない。だから意図的に「歓喜の空間」を作り出すために選手やクラブもその一部を担う必要があるのだ。

 

Jに相応しい「歓喜の空間」とは

 

VONDS市原がこの先、JFL、Jリーグとその戦うカテゴリーを上げて行ったとして、その時には恐らく試合を終えたばかりの選手たちが観客をハイタッチで見送ることはしなくなるだろう。しかしそれは決してネガティブな現象ではない。

そうしてカテゴリーを上げた頃には、そこに集まる観客だけの力で「歓喜の空間」は作れるようになっているべきだし、そうでなければトップカテゴリーで戦うクラブのスタジアムとして相応しい空間とは言えない。

気軽に声を掛けることが出来るクラブ代表や選手のいる世界。

それはつまりそのクラブが成長を目的としていることを意味し、その過渡期にあることも同時に意味しているのであろう。

VONDS市原FCは関東リーグの強豪でありたいのではなく、日本サッカー界におけるメインキャストを目指していることが、選手のハイタッチ見送りにも現れていると言えるのかも知れない。

 

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2017年9月から、私が開設しているブログがあります。

ブログタイトルは「ラーテル46.net」

こちらのブログでは主に、私が最近妙に熱心に応援し始めた「柏レイソル」についての内容を多く記事にしています。

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