私が十条の駅から東京朝鮮中高へと向かう時にはいつも違ったルートを使う。
細い路地が縦横に張り巡らされた住宅の密集したエリアを越えるのには、学校のある大体の方角さえ分かっていればどこの角を曲がって進んで行っても、迷うことなくあの大きな校門のある付近には辿り着くことが出来る。
車1台が通過するのも難しいような道を歩いていくと、かなり高い確率で野良猫と遭遇することも出来る。野良猫たちは私がつい立ち止まりそちらに視線をやってかがんでみても、ほとんど逃げてしまうことがない。彼らがこのエリアで共存する人間に対して「仲間意識」を持ってくれていることの現われかも知れない。
そんなことを考えながら学校の門をくぐると、その中では東京でも指折りのサッカーの世界がいつも繰り広げられている。
都1部 FC KOREA対南葛SC 国際色溢れる朝高グラウンド
記事:【東京1部/動画ハイライト】KOREA 0-1 南葛SC 東京1部 #tokyofootball https://t.co/R0lIXhMmVT
— TOKYO FOOTBALL (@tokyofooootball) April 16, 2018
東京都社会人リーグ1部第3節。
FC KOREA対南葛SCのリーグ戦が行われたこの日の夕方も、そんな東京朝鮮中高にいつもあるサッカーの世界が広がっていた。
ただ、この日のグラウンドには日本語とハングルに加えて、ベンチからはポルトガル語でも選手への指示が叫ばれている。通りを隔てた向こう側には何匹もの野良猫が平穏な夜を迎えようとしていた時に、そこには都リーグに似つかわしくない国際感の溢れる真剣勝負が行われていた。
両者の立ち位置

東京都1部リーグ 対南葛SC戦 FC KOREAスターティングメンバー
リーグ開幕して以降の両者の立ち位置は実に対照的だ。
今季東京都1部に昇格してきた南葛SCは、チームの約半数の選手たちが入れ替わり昨季J3カターレ富山でプレーしていたブラジル人ストライカー、カベッサも加入した。ブラジル人選手3人を含めてプロ契約選手は5人。他の選手達の経歴を見ても、ほとんどが地域リーグ以上のカテゴリーでのプレー経験のあるつわもの揃い。
これまでの2戦も、昨季の東京1部で上位争いをした強豪チームに対して連勝し、その規格外のチーム力をいかんなく発揮している。
一方のFC KOREAは、長く関東リーグをその戦いの舞台としてきたチームだが、2年連続で成績が振るわずカテゴリーを落とし、久しぶりの東京都リーグを戦うことになったチームだ。
チームが降格することで選手たちの多くが入れ替わったが、それは戦力的に見れば決してポジティブな要素ばかりではない。数年前までは選手の全てが在日コリアンだったがその制限もなくし、今季のチームでも日本人選手が7人プレーしている。これを「日本人にも門戸を開いた」ポジティブな現象と捉えることも出来るが、多くの社会人チームが陥っている選手集めの難しさが、「在日コリアンのサッカーチーム」であったFC KOREAにも大きな難題として降りかかってきたことは想像に易しい。
それでも何とかリーグ戦を戦えるだけの選手を集め、在日コリアンの誇り足らんとするチームの前途は必ずしも良好とは言えない。これまで2戦して2分け、対戦相手がともに今季の昇格組であったことを踏まえると、かなり厳しい状況にあるのは間違いがない。
こうした背景を理解すると、この夜行われた試合が「昨季関東2部」対「昨季東京2部」といった見方ではなく「苦悩する古豪」対「昇格へ爆走する新鋭」の間で行われる試合と目されていたことも分かって頂けるだろう。(実際に5年ほど前に両者が練習試合をした際はFC KOREAの前に南葛SCは歯が立たなかったそうだ)
南葛の守備包囲網を避ける「勇壮」なFC KOREA

しかしながらこうした「外野の邪推」がいかに虚しいものであるのか、それをFC KOREAの選手たちはこの試合で体現してくれた。
この日のFC KOREAの選手たちは実に勇壮であった。
ルーズボールの競り合いでは全ての選手が身体を挺してマイボールにしようとチャレンジし、シン・ヨンジュ選手やムン・スヒョン選手は「牛若丸」のように南葛SCのプレッシャーをかいくぐることで、改めて高度なボールテクニックを有していることを証明してみせた。
あのブルドーザーのようなブラジル人ストライカー、カベッサに対しては、主将のシン・ヨンギ選手が全く怯むことなく激しくチャージし続けた。
そして私はこの試合を見てFC KOREAの全ての選手がもつ「勘の良さ」も非常に強く感じた。
それを具体的な現象で説明するとすれば、読みの良さ、特にボールの行方を予測する能力の高さが際立つ試合だったように思う。
FC KOREAは南葛SCが前節の東京海上戦で見せたような「嵌める守備」にかかることを避けた。短いパスを使った展開をすれば南葛SCの優れたプレッシングの網に掛けられてしまう。そうなれば前線に爆発力のあるブラジル人という大砲を持っている相手の思うつぼだ。
ロングボールを前線に送り込むことで南葛SCの守備包囲網を回避し、そのこぼれ球を自分たちのチャンスに繋げていく。この「こぼれ球」をFC KOREAの選手たちがことごとく拾っていくのだ。
彼らは決して南葛SCの選手たちと比べて運動量が多いわけではないし、空中戦で優位を取れたわけでもない。それでも彼らが「こぼれ球」を拾えるのは、その読みの良さにあると私は理解した。
「今日良かったですよね?!」

後半40分、カベッサに規格外なゴールを決められたことでFC KOREAはこの試合を落とした。
昨季関東2部で戦っていたチームが、東京都1部の序盤3戦で未勝利という結果は受け入れがたいものであるのかも知れない。
しかし、この日の南葛SCとの戦いはFC KOREAの選手たちに残された12試合に向けたターニングポイントになるかも知れない。
試合終了後のクールダウンをするFC KOREA主将シン・ヨンギ選手に試合の感想を聞いてみると南葛SCがこのリーグの中で最も強いチームだという認識をしているという言葉とともに
「僕たち今日良かったですよね?! 今までで一番いいゲーム出来ていましたよね??」
という言葉をもらうことが出来た。
もちろん状況は厳しい。彼らにとっては今後も全く気の抜けない試合が続く。それでも彼らは「一番強い」と思っているチームに対して堂々たる戦いを出来た自分たちに対して「闘争心」を改たにしたようにも見える。
リ・チョンギョン監督はこう話した
「この3試合でリーグ戦をどう戦えばいいか分かっただろ?3試合で分かったんだから良かったよ」
リーグ戦はまだ5分の1が終わったばかり。
16チームがリーグ終了まで現在の立ち位置と何ら変わらないという思いなのであれば、残りの5分の4の戦いを行う意味はない。
「何が起こるか分からない」などと紋切り型の言葉を使うのはつまらないが、だからこそサッカーのリーグ戦には魅力がつまっているのだ。
苦しんだ南葛SCも敗れたFC KOREAも、両チームがこの試合を経てまた一味加わったチームへと成長していく。
見る度に次の試合が見たくなる。
だからサッカーはタチが悪い。また野良猫に会いに十条に行って見るか。
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