ここのところ、Jリーグを中心とした日本サッカー界の観客動員についていくつか記事に取り上げてきた。
- Jリーグクラブライセンス制度 重要なのはスタジアム建設ではなく観客動員力
- 「集客もサポーターの役割」を正確に捉えればその重要性が理解できる【前編】
- 「集客もサポーターの役割」を正確に捉えればその重要性が理解できる【後編】
プロリーグであればもちろん、観客を集めることをひとつの目的としているサッカーリーグ(有料試合を設けている地域リーグや学生大会なども)にとって、試合会場となるスタジアムが大勢の観客で埋まっている状況を作り出していくことこそが、その世界が生きながらえていく唯一の要素であり、試合を行うことで返って赤字の一途を辿るような状況が続いて行けば、そこで行われている試合のクオリティがいくら高いものであっても、存続していくに値しないと評価されてしまっても致し方ないと私は思っている。
3つの切り口「観客動員、収容人数、人口」
こうした思いから、2017シーズンにおけるJクラブのいくつかの数値データを抽出し、Jリーグの観客動員にどういった傾向が存在するのか、それを「観客動員数」「ホームスタジアム収容人数」「ホームタウン総人口」という3つの切り口でグラフを作ってみた。
これらはあくまでも数値のみによって作ったもので、その背景にある要素は一切考慮していないので、見る方によっては違った受け取り方をされることもあるだろうが、そこはある程度了承していただいた上でご覧いただきたい。
グラフ1 ホームゲーム平均観客動員数
まず初めに2017シーズンにおける全Jクラブ(J3に参戦しているU-23チームは除外)のホームゲーム平均観客動員数がこのグラフになる。
かなり小さな文字となってしまっているので非常に見づらいかも知れないが(画像をクリックするとTwitter上で拡大してご覧になれます)このグラフからは多くの方々が思い描いているJリーグの状況がそのまま反映されているとも言えるだろう。
圧倒的な1位が浦和レッズで33,542人、次いでFC東京26,490人、横浜F・マリノスとガンバ大阪が24,000人台でそれを追随している。
全体を見ても、概ねカテゴリーの高いクラブが上位を占め、J3のクラブはほとんどが下位に並ぶ。
グラフ2 ホームスタジアム収容人数に対する観客動員率
では次に、ホームスタジアムの収容人数に対してどの程度の観客動員が出来ているか、それをグラフにしたものを見ていこう。
このグラフでは、規模の極端に違うホームスタジアムの併用傾向が強いコンサドーレ、マリノス、ジュビロ、グランパス、セレッソという5つのクラブはデータから除外している。
このデータでは収容人数の比較的少ない小さなスタジアムを本拠地としているクラブが上位に上がっている傾向が読みとれる。そんな中で、27,000人収容と中規模スタジアムではありながらも常に80%以上の観客動員に等々力で成功している川崎フロンターレの存在が際立つ。更なる収容人数の拡張工事を控え、事業自体に正当性を持たせる為にもクラブは集客に必死であろうが、現在Jリーグで最もチケットを獲るのが難しいとされているフロンターレのホームゲームの状況が数値にもしっかりと現れている格好だ。
しかしながらその一方で、スタジアム収容人数の半分も観客を集めることの出来ていないクラブが33クラブも存在し、そのうち3クラブ(鳥取、福島、YSCC横浜)は10%にも満たない観客しか集めることが出来ていない。これが単にクラブの集客プロモーションに問題があるのか、あるいはそのクラブのホームタウンが持つポテンシャルにスタジアムの規模が合っていないのか、それぞれ異なる要因があるはずだが、ひとつの指標としてホームスタジアムを満員に出来るかどうかについてはそれが世間一般に与えるイメージも含めて重要な要素であるはずだ。
グラフ3 ホームタウン人口に対する観客動員率
最後に、クラブのホームタウンエリアにおける人口に対してどれくらいの人々がスタジアムへ観戦に来ているのか「ホームタウン人口に対する観客動員率」についてのグラフを見てみよう。
このグラフでは、サガン鳥栖のその極端とも言える数値の高さが一際目につく。
サガン鳥栖のホームタウンは佐賀県鳥栖市のみ。その人口は73,000人程度なので全てのJクラブの中でも圧倒的に少ない部類に入る。それでも約25,000人収容のベストアメニティスタジアムの6割を埋める15000人程度の観客を毎試合集めている。もちろんその背景には大都市博多の存在があることは想像するのに易しいが、それでも人口の約2割に迫る人々を毎試合スタジアムに集めている事実は驚きに値するだろう。(試合終了後人が多すぎてなかなか電車に乗れないという話もあるが)
また、上位10クラブが全て地方都市のクラブであることもこのデータから読み取れる特徴の一つと言えよう。東京、横浜といった大都市圏クラブが軒並み下位にあるのはその圧倒的人口規模によるものだが、Jリーグがどの程度地域の人々の生活に浸透出来ているかという見方をした時に、現状のJリーグクラブの運営が地方都市に適したビジネスモデルであるという側面も示唆しているように感じる。
そのクラブは本当にJクラブに相応しいのか
今回、こうしたデータをまとめていく中で、Jリーグクラブを単なるカテゴリーでのみで区分けし見つめていくことへの無意味さを強く感じた。
J1を戦うクラブは大都市をホームタウンとしているクラブがほとんどでありながら、実のところその街で影響力のある存在とはなり得ていないケースもあるようだ。
一方で、地方クラブであってもホームタウンエリアを広げ過ぎたことで、クラブ自体が持つアイデンテティを保てていないと予測できるケースも存在する。
理想的には、ホームタウン人口の約1.5%程度で満員になるスタジアムを本拠地として、しかもそれがJリーグクラブライセンスの示す基準に沿っている状況が望ましいのだろうが、仮にそれがJ3基準である5,000人収容レベルを割ってしまった場合はそのクラブが戦うのに相応しい舞台はJリーグではない。という逆算も出来なくはない。
実際この計算(ホームタウン人口×0.15%)を当てはめても、現在のJクラブで5,000人を割ってしまうクラブは存在しないが、そもそもひとつのサッカークラブがホームタウンに対して影響を及ぼすことの出来る範囲をはるかに超えてしまっているクラブも無いわけでない。
クラブのホームタウンにおける「観客動員」と「収容人数」と「人口」。
この3つのキーワードを切り口にすると、本当の意味で地域に愛され求められるサッカークラブの在り方が見えてくるかも知れない。