『生徒達は、明日練習が休みだと言ったら大喜びする』義務化したサッカーに未来はない

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『たぶん生徒たちは、明日の練習が休みだと言ったら大喜びする』

Jリーグスタート以前から、日本サッカー界のあらゆる現場において長くその指導に携わったゲルト・エンゲルスさんが、自身が日本で最初に指導者として携わった滝川第二高校特別コーチ時代にその現状を驚きをもってこうコメントしたそうだ。

 

日本の高校生にとってサッカーは「義務」

 

ドイツの同年代の選手たちであれば「明日の練習は休みだ」と告げれば、がっかりして落ち込む。ドイツと日本の生徒たちの間に存在するこの大きなギャップの要因がどこにあるのか。

エンゲルスさんは、それを「義務と趣味のバランス」と結論づけていたようだ。

日本の高校サッカー(滝川二高は当時からそれなりの強豪校であった)においては、生徒達が皆「義務」に駆られてサッカーをしている。

だから、先生がいなくなった途端にサッカーをすることを辞めてしまう。これは日常の練習であってもそうだったのかも知れないし、高校を卒業するとサッカーをしなくなってしまう多くの生徒たちの姿にもエンゲルスさんは違和感を覚えていたのであろう。

 

強豪校に集中するサッカー少年たち

 

実際にこうした傾向は、エンゲルスさんが高校サッカーの現場で指導をしていた1990年代初頭から30年弱が経過した現在であっても少なからず存在するであろうことは、容易に想像がつく。

高校サッカー選手権の都道府県予選パンフレットなどを見ると、いわゆる強豪とされる高校のサッカー部員のあまりの人数の多さに驚かされる。中には300人ものサッカー部員が在籍するサッカー部まであり、この少子化社会において高校サッカーにまで「格差拡大」が起きている。限られた高校のサッカー部にのみ生徒が集中する風潮は、もはや抑制の効かない段階にまで達しているのだとは思うが、プレミアリーグを頂点としたリーグ戦形式の大会が導入されるようになり、高校サッカー部の「セカンドチーム」も公式戦を戦うことが出来る環境に変化してきているとは言え、300人もの生徒に十分な試合出場機会が与えられているとは到底思えない。

エンゲルスさんが滝川二高で指導していた当時も、100人近いサッカー部員がいたそうだが、それでもエンゲルスさんは「プロになれない99%の生徒たちにはサッカーを楽しむことが最も重要」だと考えていたそうだ。

「試合に勝つ」ことを同じくらい重要なことは「サッカーを好きになる」こと。

300人もサッカー部員がいる高校において、トップチームのレギュラーになることも、セカンドチームのレギュラーになることも出来なかった250人の生徒たちは、果たしてどれくらいの人数が「サッカーを好き」で居続けてくれるのであろうか。

 

否応なしに突き付けられる「勝利至上主義」

 

300人の部員がいる高校の例はやや極端であるかも知れないが、過去から現在に至るまで、日本の高校サッカー部には、強烈すぎるほどの「勝利至上主義」「競技者至上主義」が幅を利かせている。

私の卒業した高校のサッカー部は、せいぜい東京の地区大会の決勝に進むのが関の山といった実力しかないチームであったが、高校3年生で迎えた夏合宿の締めに行われたのは、来る高校選手権東京都予選を「勝ち抜いた」ことをイメージしての校歌斉唱の練習だった。

もちろん、自分たちが本気で東京都の代表になれると思っていたものはいなかっただろう。しかし、真夏の数日間で寝食を共にし、汗をかき真っ黒に日焼けした私たちは、指導者に指示され校歌斉唱をすることを全く厭わなかった。

若さとはそういうものなのかも知れない。

目上の者を立て、自分たちの価値観や判断力を思考停止状態にし一旦脇に追いやってくれる。

指導者にしてみれば、これほどまでに使いやすい「駒」はないだろう。自らの指導方法に対して異を唱えるものはいないし、ついてこれない者はただ立ち去るのみ。

私のいたサッカー部の場合は30人弱の所帯であったので、どんどん辞めてしまえばそれはそれで困っていたかも知れないが、300人も部員がいれば仮に半分が辞めたとしても、まだ150人も残っているのだ。

 

エンゲルスさんから「日本には世界に誇るサッカーを楽しむ文化が息づいている」と言われたい

高校サッカーの現場が「勝利至上主義」で覆われてしまっているのは、日本サッカー界にそれに代わる価値基準が存在しないからだ。

エンゲルスさんの言う「サッカーを楽しむ」文化が、子どもたちの育つサッカー環境で相応の価値を認められることは少ない。

こうした環境で育った子どもたち、つまり私たち大人も含めて「サッカーをする=競技者であれ」この幻想にあまりにもとらわれ過ぎているのではないだろうか。

練習が休みになることを大喜びする少年たちに罪はない。

彼らの中でサッカーが「楽しむもの」ではなく「義務」と捉えられているのであれば、その義務からの解放を意味する休養日は喜びに満ちたものであるのも当然なのだから。

長く日本社会に存在する「スポーツ=勝利至上主義」「練習=義務」という価値基準の連鎖を断ち切るためには、幼い子どもたちのサッカーの現場から変えていくことも重要であろうし、現在サッカー界に携わる選手、指導者、ファン、そうした全ての人たちが、新たな価値観の矢印の方向を常に示していくことが必要と言えるだろう。

「日本は世界トップクラスのサッカー強豪国だ」と言われるよりも「日本には世界に誇るサッカーを楽しむ文化が息づいている」と言われる方が、何倍にも価値のある言葉だと言えないだろうか。

 

 

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