2017シーズンのJリーグにおいて、北海道コンサドーレ札幌に加入した「タイのメッシ」ことチャナティップの活躍はひとつの大きなトピックスとして数えてもいいだろう。
コンサドーレ「アジア戦略」のこれまで
レ・コン・ビン、31歳にして会長に就任。ベトナムの英雄の挑戦。札幌で学んだ「プロフェッショナル」https://t.co/Miy2tcCfLC
(取材・文:宇佐美淳【ホーチミン】) pic.twitter.com/wWGPsgEkYe— フットボールチャンネル⚽️ (@foot_ch) January 28, 2017
コンサドーレは2013シーズンにもベトナムの英雄、レ・コン・ビンをレンタル移籍で加入させ大きく話題になったが、当時のコンサドーレはJ2に所属していた上に、レ・コン・ビンのリーグ戦出場機会も10試合に満たなかった。
Jリーグの標榜する「アジア戦略」の先駆けとして、ASEAN加盟国のスター選手をJリーグでプレーさせたという意味では、一定の評価もされ、その経済効果も少なからず生まれたともされているが、Jリーグクラブのいち戦力として考えた時には、レ・コン・ビン加入は必ずしも成功だったとは言えないし、在籍期間わずか半年でベトナムに帰ってしまったレ・コン・ビン本人にとっても、Jリーグへの挑戦が難しいものであったと認識しているはずだ。(コンサドーレは契約延長の意思を持っていた)
「タイのメッシ」チャナティップの獲得
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レ・コン・ビン加入から4シーズンが経過し、コンサドーレが新たにその白羽の矢を立てたのが「タイのメッシ」の異名で呼ばれるタイ代表の若きスター選手、チャナティップ・ソングラシンであった。
提携国枠とは
2014シーズンからJリーグで新たに設けられた外国人枠規定「※提携国枠規定」(2017年現在で定められている提携国はタイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、イラン、マレーシア、カタールの9か国)によって東南アジア地域の選手がJリーグでプレーしやすい環境が整い、チャナティップもこの提携国枠の外国人選手として、コンサドーレでプレーすることになった。
※提携国枠規定
2017明治安田生命J1・J2・J3リーグ戦試合実施要項
- 第 14 条〔外国籍選手〕(1) 試合にエントリーすることができる外国籍選手は、1チーム3名以内とする。ただし、アジアサッカー連盟(AFC)加盟国の国籍を有する選手については、1名に限り追加でエントリーすることができる。
(2) 登録することができる外国籍選手は、1チーム5名以内とする。
(3) Jリーグが別途「Jリーグ提携国」として定める国の国籍を有する選手は、前2項との関係においては、外国籍選手ではないものとみなす。
コンサドーレとしても、クラブの「アジア戦略」を推し進める上での重要な担い手として、チャナティップは何としても欲しい選手として位置づけられ、Jリーガーとしての市場価値が1000万にも満たないチャナティップに対し、彼がタイで得ていた年俸額(約4000万円)と同じ水準のギャラをチャナティップ加入によって新たに獲得したスポンサー収入などを充てることで、まかなったとも言われている。
欧州・南米・アフリカ人が選手になり、アジア人が観客となっている
現在、世界最高峰と呼ばれるイングランド・プレミアリーグはその収益の多くが莫大な放映権料によって占められている。そしてその放映権の販売先として最上の顧客となっているのがアジア市場だ。言わば、プレミアリーグの実情は「欧州・南米・アフリカ人が選手になり、アジア人が観客となっている」と表現することも出来る。
Jリーグの標榜する「アジア戦略」とは、こうして欧州に向かっているアジア資本をJリーグを中心としたアジア地域で循環させることを目指しており、チャナティップの加入も、こうした大局的な流れの一環としてのイメージが強いものであった。
しかしながら「アジア戦略の担い手」としての存在価値とは裏腹に、チャナティップの選手としての能力については、レ・コン・ビンやステファノ・リリパリーが多くの成果を挙げられなかったように、ACLなどでの実績はある程度認められていたとはいえ、それほど大きな期待はかけられていなかったとも言えよう。
チャナティップの活躍とアジア戦略の効果
ブログ更新 : 《コンサドーレ札幌》チャナティップ「日本はプロ意識が高い」 “タイのメッシ”が初シーズンを振り返る https://t.co/Iy4nBq0iY7 pic.twitter.com/BFx2ipCwCG
— JとFの歩き方 管理人 (@jfarukikata) December 31, 2017
しかし、2017年7月のコンサドーレ加入後、チャナティップはそうした期待度を完全に裏切り、ピッチを躍動した。
7月26日のルヴァンカップ対セレッソ大阪戦で途中交代で出場し日本デビューを果たすと、7月29日のJ1第19節浦和戦で初先発をして以来、シーズン終了までほとんどの試合で先発出場(うち11試合はフル出場)。ゴールこそ挙げられなかったものの、昇格1年目というコンサドーレにとっても難しいシーズンの後半戦において、見事J1残留を果たした大きな要因として、チャナティップの存在感は特筆すべきものだった。
チャナティップの加入は、その「アジア戦略」についても、コンサドーレの狙い通り確実に成果として現れているようだ。2017シーズンについてはタイにおいてJ1、J2の試合が毎節3~4試合放送されるようになり、Jリーグへの関心が一気に高くなっている。また、タイから札幌へのインバウンドも増加傾向にあると言われている。
そして、チャナティップの「成功」がもたらせた効果は、他のJ1クラブにも波及し始めている。
次のチャナティップを狙えとばかりに、新たに2人のタイ代表選手が2018シーズンからのJ1にやってくることがほぼ決まったのだ。
新たにJへ加わるタイのスター達
かつて日本人選手たちがこぞってセリエAに挑戦したように、タイ人選手たちにとってもJリーグは国の誇りをかけて戦う舞台でもあります。そして、タイ人選手が戦うところにはクラブにとっても多くのインバウンドビジネスのチャンスが眠っています。#mifootball https://t.co/90zbro2BeJ
— ミッション型インターン M:I F (@mif_asia) January 24, 2018
ティラーシンはタイ代表でも10番をつけ、2014年にはリーガエスパニョーラでもプレーした経験を持つストライカーで、既にサンフレッチェ広島への期限付移籍での加入が決まっている。
もう1人の選手がティーラトンで「悪魔の左足」を持つと言われるタイ代表のサイドバックだ。こちらは、ヴィッセル神戸への期限付移籍に合意する運びとなりそうだ。
彼らはチャナティップと同じタイリーグの強豪、ムアントンユナイテッドの選手であり、これまでにACLにおいてJリーグクラブを苦しめてきた選手たちだ。
こうしてスター選手が3人もプレーするとなれば、タイ本国でのJリーグに対する注目度はさらに高まっていくだろう。
札幌、広島、神戸といった日本の主要な観光都市をホームタウンとするクラブが今回彼らの獲得に動いたのにも「Jのアジア戦略」がまさに効果を生みやすい環境であるとの判断があったことは明らかである。
彼らが2018シーズンにチャナティップに続く活躍を見せることで、福岡、名古屋、大阪、横浜そして東京といった主要都市をホームタウンとするJクラブが新たな「アジア戦略」選手を獲得する潮流が生まれていくのかも知れない。
Jリーグは既に日本人サッカーファンだけのものではなくなってきているのだ。
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