「恩を仇で返すことになってしまった」
川崎フロンターレへの完全移籍が決まった齊藤学は、横浜F・マリノス公式サイト上でファン・サポーターに対して、こう話した。
今回の移籍は契約満了に伴ういわゆる「0円移籍」であり、川崎フロンターレが斎藤を獲得する上で、マリノス側に「移籍金=契約解除金」を支払うことはない。
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉は、「引き際は美しくあるべき」「立ち去る者は、見苦しくないようきれいに始末をしていくべき」といった意味を持つ戒めの言葉だが、齋藤学が自らの「目的」のみを優先し、育ててもらったクラブに「置き土産」もしなかったといったイメージを持たれてしまったことも、今回の移籍ニュースに対して多くのマリノスファン・サポーターをやるせない気持ちにさせている要因であろう。
「0円移籍」はJの日常的な風景
齋藤学の0円移籍を昨季のユニに少し手を加えて表現。すごいトンチが効いている。https://t.co/VdyOi8lDUu pic.twitter.com/XZPvXesyh0
— ニート鈴木 (@suzuki210) January 12, 2018
しかし、この「0円移籍」はJリーグ選手の移籍においては、半ば日常的な風景となっている。
特に、欧州への移籍、世界サッカー市場への進出を視野に入れている選手たちの多くは、所属クラブとの複数年契約を避ける傾向が顕著であるという。
今でこそ、欧州で活躍する日本人選手は増えたものの、それでも欧州における「日本選手ブランド」は南米やアフリカのそれと比較できるレベルには達していない。
それでも、日本人選手が多く欧州へ渡ることが出来ている理由は、彼らが獲得に「カネ」のかからない選手たちであるからだ。
香川真司然り、岡崎慎司然り、2009年にJリーグの「移籍ルール」がそれまでのローカルルールからFIFAルールへと大転換をしてからというもの、「0円移籍」で欧州へ活躍の場を移すという道が生まれた。
欧州クラブとしては所属クラブと複数年契約を結んでいる選手に「移籍金=契約解除金」を支払ってまで欲しいと思わせる選手もいるはずなのに、「0円移籍」で獲得できる選手が大勢いることで、どうしても需要がそちらへ集まってしまいがちだ。
こうした流れは当然ながら、Jリーグクラブ間での移籍においても当たり前の風景になりつつある。しかしながら、今回の齋藤学移籍ニュースのように、その移籍が契約満了に伴う「0円移籍」であったかどうかは、クラブ側が公開しない限り我々は知ることが出来ない。
スペインでは選手の代理人まで選手名鑑に載っている
Football Channel : 【リーガエスパニョーラ】<バルセロナ>コウチーニョを違約金520億円で獲得!公式サイトで発表 https://t.co/vXu5rxe0lc pic.twitter.com/NHoSvf6VTU
— Football Channel (@CDmyokprMm7dV6Y) January 6, 2018
スペインでは、一般のサッカーファンが目を通す、いわゆる「選手名鑑」にその選手の年俸はもちろん、契約年数からその他の付帯条件、代理人の名前までもが記載されているそうだ。
クラブのファン・サポーターは自分が応援するチームの選手の代理人の名前を見れば、彼がその後どういったクラブへいつ頃移籍する可能性があるかまで、想像することが出来るとさえ言われている。
そして、彼らはこうした「選手の移籍話」をおもにシーズンオフの楽しみのひとつと考えている。
契約年数が残っている選手であれば、仮にどこかのチームへ取られてしまっても、場合によってはその選手より期待のもてる選手を獲得するだけの資金=移籍金を残してくれると考え、契約最終年の選手については、来シーズン他のチームへ移ってしまうことは半ば当然のこととして捉える。
そうした背景があるから、単に移籍してしまったという事実だけで、ブーイングをすることにはならない。
「干される」選手たち
原口元気の受け入れ先を待つヘルタだが、残留についても「扉は開けている」と首脳陣(SOCCER DIGEST Web) – Yahoo!ニュース https://t.co/TBydefYUVk @YahooNewsTopics
— shingo_one (@shingo_moriya) January 12, 2018
私はJリーグも選手と所属クラブの契約年数を公開すべきだと考えているが、欧州リーグのように全てをつまびらかにすることが引き起こしかねない事態についても危惧している。
欧州では、クラブ側からの契約延長の申し入れを拒否した選手や、クラブ側の意思で他のクラブへの移籍を打診された選手がそれを拒否した場合、チームから「戦力として計算できない」として「干されて」しまうという事態が起きることがある。
最近ではヘルタの原口元気がクラブからの契約延長を拒否したことで出場機会を失い、現在も尚「飼い殺し」状態に陥っているし、過去にはマルセイユに所属していた中田浩二が、イスラエルのクラブへの「放出」を拒み、トップチームのロッカールームさえも使用させてもらえなくなった。
こうした事実を我々日本人は感情論で捉えてしまいがちだが、選手を「商品」として売買の対象と考える欧州サッカーにおいては、比較的ドライに受け取られているようだ。
意識の向上が先か、公開が先か、
齋藤学が移籍…あの元日本代表DFも「ちょっと理解に苦しむ」と苦言を呈す https://t.co/MH5GzzUDmb
— サッカーニュースQoly(コリー) (@Qoly_Live) January 12, 2018
今後、Jリーグが選手との契約年数などの情報を公開すれば、それまで見えていなかったものが一般のファンにも見えてしまう。
「あの選手が突然起用されなくなったのは、契約延長を断ったから」
こうした情報を受け取ったときに、日本のサッカーファンは果たしてスペインのサッカーファンのように、それをドライに受け取ることが出来るだろうか。
日本における選手代理人の草分け的存在でもある田邊伸明氏は、Jリーグクラブが契約年数を公開していない理由として、Jリーグ側が「ファンの皆さんが心配する」といった説明をしているとTwitterでコメントしている。
こう答えたJリーグには、日本のサッカーファンはスペインのサッカーファンのようにはいかないという予測が存在するのだろう。
確かに、今回の齋藤学移籍に際しての一連の反応を見ても、感情論に走っている傾向が強いのは確かだ。
「可愛さ余って憎さ百倍」とは良く言ったもので、シーズン中にはあれ程までに人気のあった選手が、今では「親の仇」であるかのような扱いをされている。
確かに、2017シーズンのマリノスにおける齋藤学の存在感を考えれば、それを突然に失った失意のほどは理解出来るにしても、「10番のユニフォームを燃やせ」云々の言葉さえ飛び出すほど、この移籍が「醜い」とは私は思えない。もちろん、こうした言動の多くがSNSなどを通したものであることは差し引いても、ケースによっては選手に直接危害が及ぶ不安すら感じさせる。
日本のサッカーファンの「移籍」に対する捉え方が今以上に深まっていくことを待つのが先なのか、Jリーグが選手との契約内容を公開しそれを促していくのが先なのか、少なくとも単に「公開すべし」と訴えるだけではなく、それによって起こり得るリスクについても、我々は十分に承知しておく必要があるのかも知れない。
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