E-1選手権 韓国対北朝鮮 引き分けが求められるゲームであったのか?

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「北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国」

日本のマスメディアは、朝鮮半島の北側にあるこの「国」を長くこう呼称していた。

朝鮮半島に存在する南北の「国」が互いに、自分たちが朝鮮半島における唯一の「政府」と主張し、日本政府は1965年に当時の韓国朴正煕政権との間に、韓国を朝鮮半島唯一の合法的政府として認める「日韓基本条約」に締結していることを理由に「北朝鮮」を国家としても承認していない。

 

互いの「呼称」にも見られるナイーブな関係性

 

北朝鮮の人々は自国のことを「北朝鮮」とは呼ばない。

呼ばないどころか、単に実効支配する地域をさしたこの名称に嫌悪感すらもっていると言えよう。

彼らは自らを「朝鮮」あるいは「共和国」と呼ぶのが通例で、韓国のことは「南朝鮮」と呼んでいる。

一方で大韓民国(韓国)においては、北朝鮮を「北韓」と呼ぶのが普通だ。

韓国こそが朝鮮半島唯一の合法的政府としている彼らにとって、北朝鮮は国家ではなく「韓国の北地域を支配する者たち」といった位置づけで認識されている。

日本のマスメディアが北朝鮮のことを「北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国」と呼んできたのには、こうした両政府に対する配慮が働いている結果でもある。(2000年代に入り、拉致被害者問題などが噴出したことで、日本側にこうした配慮が徐々になくなり、2003年以降になると「北朝鮮」あるいは「北」といった呼称が一般的になった)

 

「祖国を同じくする兄弟」による対戦

 

私の目前で行われているサッカーの試合でピッチに立つ22人の選手たちには、旧ユーゴスラビア、あるいはスペイン・カタルーニャで起きたような「異民族」による分断が存在しているわけではない。ひいてはそこに「宗教的対立」があったわけでもない。(共産主義を宗教と定義することは難しいだろう)互いの中心となる街と街とは地続きで、わずか200㎞しか離れていない。

しかし彼らは大きな時代の流れの中で、互いを「最も受け入れがたい相手」とする運命を受け入れざる得なかった。

味の素スタジアムで激しい相手へのアプローチをし続けている、FC東京のDFチャン・ヒョンスも、長くサガン鳥栖の背番号10を背負ったキム・ミヌも、この日相手にしているチームの選手たちは「認められない相手」であると同時に「祖国を同じくする兄弟」でもあるのだ。

 

「引き分け」が求められているのか?

 

実はこの両チームの対戦、引き分けに終わることが非常に多い。

E-1サッカー選手権の歴史だけを紐解いても、両者はこれまでに3度対戦し、全て引き分けている。そうは思いたくないが、この両チームが「決着をつけない」ことを良しとしてきたのではないかと思えてもくる。

私は、3日前に日本代表と戦った北朝鮮チームの清々しいほどに懸命な姿勢をこの試合からはあまり感じることが出来ずにいた。

局面局面での激しさはあったにせよ、どうにも戦いぶりが「淡泊」なのだ。

カマタマーレ讃岐でプレーする在日コリアンのボランチ、リ・ヨンジからは明らかに戸惑いの様子が見て取れたし、スイス・ルツェルンでプレーするチョン・イルグァンからも日本戦のような覇気を感じることは出来ない、前線で身体を張るキム・ユソンと、初戦に続き交代出場した東京朝高出身のアン・ビョンジュンの闘争心が悪目立ちしているような印象すら持った。

韓国チームにしてもそれは同様だった。

初戦の中国戦で圧倒的なターゲットマンとしての能力を見せつけた全北現代のキム・シヌクが温存されたこともあってか、特に攻撃面での迫力がまるで感じられない。

左サイドから攻め上がり、恐ろしいほどに正確なミドルシュートを何本も打っていたキム・ジンスも、この日は北朝鮮の脅威となってはいなかった。

ただ、今回の対戦においては、北朝鮮チームのオウンゴールによって韓国が1-0で勝利を挙げた。

この結果は両チームにとって想定の範囲だったのだろうか。

 

北朝鮮応援団から送られた喝采

試合終了後、北朝鮮応援席に挨拶をする韓国代表チーム。

 

しかしこうした見解は全て私個人が勝手に抱いたもので、万人がこの試合がこう見えていたとは限らない。

それは試合終了後に見ることの出来たあるシーンから私は感じ取った。

韓国チームは出場選手からベンチにいた全ての選手が、初戦に続いて味スタに駆けつけた北朝鮮チーム応援席まで挨拶に行ったのだ。

こうした「セレモニー」が両国の対戦で通例となっているのかは分からない。

しかし、スタンドから北朝鮮チームに大声援を送り続けていた彼らは、韓国チームに向かっても大喝采の声をあげていた。

「きっと、この試合は素晴らしい試合だったんだ」

スコアは時に結果でしかない。

互いに接点を持ちようのない2つのチームが、東京で90分戦ったこと。

これ以上に彼らが求めるものは無かったのかも知れない。

 

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